Peavey 5150が、ある時期から6505という名前で売られるようになったことは、よく知られている。
ヘッドの名前が変わった。
ハイゲインのアンプを語るとき、この改名は何度も話題になる。
だが、同じ時期に名前を持っていたものが、もう一つある。
ヘッドの下に置かれた4×12の、その中に入っていたスピーカーである。
1990年代、そのスピーカーはSheffield 1200と呼ばれていた。
2012年のPeaveyの交換部品表では、同じ箱の交換用スピーカーが「Sheffield 6505」と載っている。
アンプの名前が、そのままスピーカーの名前になっている。
そして現行の6505 4×12には、Sheffield 1230+という名前のスピーカーが入る。Peaveyはこれを、1991年に採用を決めた最初の設計へ立ち返ったもの、と説明している。
スピーカーを、アンプの系列名で呼ぶ。
これは何を意味していたのか。
5150は、ヘッドと箱をまとめて一つの音として売られた
まず、5150が売り出されたときの言葉から見ておきたい。
1990年代のPeaveyの印刷物に、5150スタックの広告が載っている。
そこでは、リズムとリードの2つのチャンネルを、Edward Van Halen本人がvoicingしたと書かれている。
ここまでは、シグネチャーアンプの売り文句として珍しくない。
注目したいのは、その次の一文である。
広告は、数か月にわたる厳しい試験のなかで、スピーカーのvoicingとキャビネットの構造について多くの組み合わせを吟味し、捨て、そのうえで最終的な組み合わせにたどり着いた、と書いている。
ヘッドの回路の話ではない。
スピーカーと箱の話である。
5150のスタックは、ヘッドの横に「対応するキャビネット」を並べた商品ではなかった。少なくともメーカー自身は、ヘッドと箱とスピーカーを合わせて一つの音を作った、という言い方で売っている。
ストレートとスラントの2種類の4×12が用意され、ヘッドと組み合わせて「スタック」と呼ばれた。
ここでいう「組み合わせ」は、どのスピーカーを、どういう箱に入れるかの選択だった。
Sheffield 1200は、5150の4×12にしか入っていなかった
同じ広告には、もう一つ製品が出てくる。
5150 212 Comboである。
60Wの真空管コンボで、スタックと同じ音をコンパクトにまとめた、という位置づけの製品だった。
広告は、このコンボが鳴らすスピーカーについて、こう説明している。5150の4×12キャビネットにしか使われていない、あのSheffield 1200を2基使っている、と。
この言い方には、二つのことが含まれている。
一つは、Sheffield 1200が、5150の箱のための専用品だったということ。
もう一つは、コンボが「スタックと同じ音」を名乗るために、そのスピーカーを借りてくる必要があったということである。
回路をコンボに移すだけでは足りない。
スピーカーも同じものでなければ、同じ5150の音とは言えない。
メーカーはそう考えていた、少なくともそう売っていた、と読める。
ここで、ふつうのギタースピーカーの名前の付け方と比べてみる。
CelestionのVintage 30やG12M Greenbackは、どのアンプに入っても同じ名前で呼ばれる。スピーカーはスピーカーの名前を持ち、アンプメーカーはそれを選んで積む。キャビネットのスペック表に「Vintage 30×4」と書けば、それが何かは読者に通じる。
Sheffield 1200は、そういう名前ではない。
「5150の4×12に入っているスピーカー」として説明されている。
スピーカーの側から何かを語るのではなく、どのアンプの箱に入っているかで、自分が何であるかを示している。
交換部品表では、スピーカーの名前が「6505」になっていた
時代が下る。
PeaveyにはSpeaker Usage Reference Guideという交換部品の対応表がある。2012年7月付のPDFで、どのスピーカーがどの製品に入っているかを、品番と並べて一覧にしたものである。
その表に、次の2行がある。
Sheffield 6505の8Ω版は、6505 2×12 Combo用。
Sheffield 6505の16Ω版は、6505 4×12 Straightと6505 4×12 Slant用。
かつて5150の4×12に入っていたスピーカーの交換用は、この時点では「6505」という名前で載っている。
アンプが5150から6505へ名前を変えたのと同じように、スピーカーの名前もアンプの名前を追っている。
同じ表には、Sheffield Triple XXXという名前もある。16Ω版がTriple XXX 412のスラントとストレート用、8Ω版がTriple XXX 212 Comboと212キャビネット用である。
こちらも、スピーカーの名前がそのままアンプの名前になっている。
Peaveyは、Sheffieldという自社スピーカーの系列を持ち、その中でアンプ系列ごとに専用の型を割り当てていた。そのことはPeaveyの垂直統合を扱った記事でも触れた。
ここで見たいのは、その割り当てが、名前の付け方にまで表れていたことである。
ここからはCSLの読みになる。
交換部品の名前をアンプの系列で付けると、スピーカーを飛ばした人は、迷わず同じ系列の部品へ戻ってくる。
6505の箱のスピーカーが1本飛んだとき、探すべきものは「6505」である。
特性の近い他社品を探す必要はない。そもそもこの表は、Sheffield 6505がどんな周波数特性で、どれだけの能率を持つかを書いていない。書いてあるのは、どの箱に入るか、だけである。
スピーカーの性格を数値で説明しない代わりに、所属を名前で説明している。
これは、保守まで含めて一系を管理するやり方である。
ヘッドと箱とスピーカーを、買った後の修理まで含めて、同じ名前の中に閉じておく。
ただし、この表から言えるのは名前の対応までである。1200と呼ばれていたものと、6505と呼ばれていたものが、同じ設計のまま名前だけ変わったのか、途中で中身も変わったのかは、表からは分からない。
現行品は、1991年の設計へ戻ったと書いている
現在、Peaveyは6505 Reissue 412というキャビネットを売っている。スラントとストレートの2種類である。
2022年の仕様書は、このキャビネットを、1992年のオリジナル版の仕様を厳密に基礎にし、長年にわたって多くのアーティストから求められてきた基本的な更新をいくつか加えたもの、と説明している。
中に入るのは、Sheffield 1230+を4基。
仕様書は、この新しいSheffield 1230+について、1991年に最初に採用が決まったオリジナルのSheffield設計へ立ち返ったものだ、と書いている。
現行の製品ページは、同じスピーカーを「specially-voiced」、つまり特別にvoicingされたスピーカーと形容する。
キャビネットの仕様は、300W、モノラル時16Ω、ステレオ時は片側8Ω。バーチ合板で、密閉型である。
ここには、読み取れることが三つある。
一つ目は、スピーカーの設計が「1991年」に決まったと書かれていること。オリジナル版の箱が1992年とされているのに対して、スピーカーはその前の年である。5150を作る過程のなかで、スピーカーの選定が早い段階で固まっていたことを、メーカー自身が年号で示している。
二つ目は、「立ち返った」という言い方である。戻るということは、どこかの時点で、最初の設計から離れていたことを含んでいる。何がいつ変わったのかは、仕様書には書かれていない。だが、メーカーが現行品を説明するときに、「最初のスピーカーに戻した」ことを売りの一つにしている。
スピーカーの世代が、アンプの復刻の正しさを示す根拠として使われている。
三つ目は、名前の変化そのものである。1200、6505、1230+。同じ箱のスピーカーが、資料によって三つの名前で呼ばれている。
アンプの名前は一度変わっただけだった。
スピーカーの名前は、それより多く変わっている。
そして最新の名前は、最初の設計に戻ったことを示すために付けられている。
名前が分かれた後、もう一方の5150はGreenback系を選んだ
5150という名前は、Peaveyの手を離れた後、別の場所で続いた。
Edward Van Halenは、自分の名を冠したEVHブランドから、5150IIIというアンプを出す。
このとき、スピーカーにも名前が付いた。
CelestionのG12 EVHである。
Celestionは、このスピーカーについて、EVHブランドの新しい5150-IIIシグネチャーアンプのためにスピーカーを選ぶときが来たとき、選択肢はCelestionしかなかった、と書いている。
ベースになったのは、Heritage SeriesのG12M Greenbackである。Celestionの説明では、20WのGreenbackはキャリアの最初から、スタジオでもステージでも、Van Halenの音に欠かせない役割を果たしてきた。そのGreenbackに、EVHのロゴと赤・白・黒のストライプを入れた黒いマグネットカバーを付けて、G12 EVHが生まれた、とされている。
公表されている仕様は、20W、感度96dB、セラミック磁石35oz、共振周波数75Hz。
Peavey側の6505 4×12がSheffieldを4基入れて300Wとしているのとは、ずいぶん違う方向である。
ただし、ここで数字を並べて比べるのは公平ではない。300Wはキャビネット全体の定格で、20Wはスピーカー1基の定格である。Sheffield 1230+単体の定格や感度は、公表されていない。
それでも、方向の違いは読める。
Peavey側は、自社のSheffieldを、アンプの系列名で呼び続けた。
EVH側は、Celestionの定番スピーカーを土台にして、そこに本人の名前を載せた。
一方はメーカーの名前の中にスピーカーを閉じ、もう一方は演奏者の名前の中にスピーカーを閉じた。
やり方は逆である。
だが、どちらも同じことをしている。
スピーカーを汎用品として扱わず、アンプの名前の一部にしている。
5150という一つのアンプが二つに分かれたとき、どちらの側も、スピーカーに自分の名前を付けた。
名前は、販売の言葉でもある
ここまでの読みには、注意しておくべき点がある。
まず、ここで使った資料は、すべてメーカーの自己記述である。「数か月の試験で多くの組み合わせを捨てた」も、「1991年に採用を決めた最初の設計」も、広告や仕様書の言葉であり、試験の記録そのものではない。
次に、部品に系列の名前を付けることには、音とは別の理由もありうる。在庫管理の都合、交換部品を他社品に流さないための販売上の判断、取扱説明書の書きやすさ。スピーカーを「6505」と呼ぶことが、そのまま音の設計思想を表しているとは限らない。
さらに、名前が同じだからといって、中身が同じとも限らない。1200、6505、1230+のあいだで、コーン、ボイスコイル、磁石、定格がどう違うのかは、公表されていない。
そして、キャビネットのスピーカーをVintage 30などの他社品に載せ替えるという選択は、使い手の側に常にある。メーカーが一系として設計したことと、使い手がそれを一系のまま使い続けたかどうかは、別の話である。
この記事が扱っているのは、音の優劣ではない。
メーカーが、スピーカーをどう呼び、どう売り、どう補修させようとしたか、である。
キャビネットの名前の中には、スピーカーの名前が入っている
この話は、キャビネットを録音したIRやプロファイルを選ぶときにも関わってくる。
「5150の4×12」と言うとき、それは1990年代のSheffield 1200が入った箱なのか、交換部品のSheffield 6505が入った箱なのか、現行のSheffield 1230+が入った箱なのか。あるいは、使い手がVintage 30へ載せ替えた箱なのか。
箱の名前は同じでも、中にいるスピーカーは時期によって違う名前を持っている。
メーカー自身が、現行品の売りとして「最初のスピーカーに戻した」と書くほど、その違いは意識されている。
キャビネットの音を記録するなら、箱の名前だけでなく、中のスピーカーの名前と世代まで書いておく必要がある。
Peaveyがスピーカーにアンプの名前を付けたのは、スピーカーが音の一部だと考えていたからだ、と読める。
だとすれば、その箱を語る側も、スピーカーの名前まで含めて語るのが筋である。
まとめ
Peavey 5150が6505へ改名したことは、よく知られている。
だが、その4×12の中のスピーカーも、名前を持っていた。
1990年代の広告は、Sheffield 1200を「5150の4×12にしか入っていない」スピーカーとして説明し、コンボが同じ音を名乗るためにそれを2基借りてきたと書いた。
2012年の交換部品表では、同じ箱の交換用スピーカーが「Sheffield 6505」と呼ばれていた。Triple XXXにも、Sheffield Triple XXXがあった。スピーカーの性格を数値で語る代わりに、どのアンプに属するかを名前で語っていた。
現行のSheffield 1230+は、1991年に採用を決めた最初の設計へ立ち返ったと説明される。スピーカーの世代が、復刻の正しさを示す根拠になっている。
そして5150という名前が分かれた後、もう一方の5150IIIは、Celestion Greenbackを土台にしたG12 EVHを選び、そこに演奏者の名前を載せた。
メーカーの名前と、演奏者の名前。
方向は逆だが、どちらもスピーカーを、アンプの名前の一部として扱った。
ハイゲインのアンプの音は、ヘッドの回路で語られることが多い。
だが、その音を作った人たちは、箱の中の4つのスピーカーにも、同じ名前を付けていた。
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