2002年前後、ドイツのHughes & Kettnerは、ひとつの音楽のためにアンプの系列をまるごと作った。
名前はWARP。対象は、ニューメタルである。
取扱説明書は、アンプの機能から書き始めていない。最初に置かれているのは、音楽の定義である。
21世紀のメタルは、下げたチューニング、重く不吉なリフ、そして大きく大胆にエフェクトをかけたクリーンでできている。だから昨日までの増幅装置では、この新しい音の世界に太刀打ちできない、と説明書は書いている。
ソリッドステートのアンプ、歪みペダル、真空管ヘッド。WARPの名前は2年ほどのあいだに4種類の製品へ広がった。
そして、数年で店頭から消えた。後継の製品は出ていない。
この記事では、WARPの製品を順に紹介し、その系列が市場にどんな跡を残したのかを見ていく。
WARPという系列には、何が含まれていたのか
Hughes & Kettnerの公式サイトには、生産を終えた製品の取扱説明書を集めたアーカイブがある。
WARPの名前が付いた製品は、そこに6つ並んでいる。
WARP 112。
WARP 212。
WARP 7 Halfstack。
WARP Factor。
WARP T Halfstack。
WARP X。
最初の3つは、同じ取扱説明書を共有している。1×12と2×12のコンボと、ヘッドに4×12を組み合わせたハーフスタックで、中身はどれもWARP 7である。WARP Factorは歪みペダル。WARP TとWARP Xは真空管ヘッドである。
それぞれの取扱説明書には、版の日付が印刷されている。
WARP 7は2002年9月の第2.5版。
WARP Tは2003年6月。
WARP Factorは2003年7月。
WARP Xは2004年4月。
これは発売日ではない。説明書が版を重ねた時点の日付である。ただ、少なくともこの順番で、2年に満たない間に4種類の製品が説明書を持っていたことは分かる。
WARP 7:7本目の弦を型番に入れたソリッドステート
最初のWARP 7は、ソリッドステートのアンプである。
仕様表には「CURRENT FEEDBACK」方式のソリッドステート・パワーアンプとある。出力は4Ωで100W、1×12のコンボだけは80W。コンボにはCelestionのHot 100、4×12キャビネットにはCelestionのRockDriver Juniorが入っていた。
型番の「7」は、7弦ギターの一番低い弦を指している。後に出たWARP Tの説明書が、そう由来を説明している。
チャンネルは2つ。CLEANとWARP。
取扱説明書は、回路の新しさを2点にまとめている。
1つ目は、プリアンプが「下げたチューニングのギターの信号と周波数特性に合わせて最適化されている」こと。他のアンプが描き始めることもできない帯域で、このアンプは本領を発揮し始める、と説明書は書く。
2つ目は、2つのチャンネルが音の上で正反対であること。ウルトラ・クリーンと、咆哮するハイゲインである。
WARPチャンネルの説明は、音楽のジャンル名の列挙になっている。設定しだいで、nu metalのずしりとした打撃、ポスト・グランジの唸り、オルタナティヴの噛みつき、デスメタルやゴシックメタルの終末の雷鳴が出る、と説明書は書いている。設定例のひとつは、ずばり「Bizkit」サウンドと呼ばれている。
CLEANチャンネルも、同じ音楽から設計されていた。想定されているのは、エフェクトを深くかけたクリーンである。ヴァイブ、ロータリー、トレモロを大音量でかけても、音はバンドの中で埋もれずに通る、と説明書は書く。
重いリフと、加工されたクリーンのアルペジオ。その往復がひとつの曲の中で起きることが、2チャンネルの前提になっている。
WARP 7(212コンボ)のデモ演奏。
WARP Factor:同じ要求をペダルへ切り出した
WARP Factorは、同じ名前を持つ歪みペダルである。説明書の日付は2003年7月で、WARP Tとほぼ同じ時期にあたる。
つまみはGain、Level、そしてWARP。
WARPのつまみは中域を動かす。左いっぱいでは250Hzの低い中域から1kHzの高い中域までを持ち上げ、右いっぱいでは500Hzを削り、3kHzにわずかな張りを足す、と説明書は書いている。
そして、SUBというスイッチがある。
SUBは90Hzで低域を持ち上げる。説明書は、これを「本当に邪悪な音の4×12キャビネットの共振周波数」だと説明している。
このペダルは、アンプの入力の前にだけ置くように指定されている。エフェクトループに入れるものではない、と説明書ははっきり書く。きれいなクリーンにしたアンプを大音量にし、その前に置け、という使い方である。
アンプ本体を買い替えなくても、手持ちのアンプの前段に、同じ要求を差し込める。WARPという名前は、ここで1台のアンプの名前から、ひとつの音の目標の名前へ広がっている。
WARP Factorのデモ演奏。
WARP T:真空管になり、SUBとLUBEが加わった
WARP Tは、真空管ヘッドである。
6L6を4本、プリアンプには12AX7を使い、出力は120W。上段にVintage 30、下段にHot 100を入れた専用の4×12キャビネットと組み合わせるハーフスタックとして説明されている。
型番の意味も変わった。WARP 7の「7」が7本目の弦を指していたのに対して、WARP Tの「T」はヘッドに潜む真空管の力を指す、と説明書は書いている。
1代目の型番には、楽器の条件が入っていた。2代目の型番には、回路の方式が入った。説明書の冒頭の一文は、WARP 7からほとんどそのまま引き継がれている。
WARPチャンネルには、2つのボタンが加わった。
SUBとLUBEである。どちらも、WARP 7には無い。
SUBについて、英語の説明書は、WARPチャンネルの暗い下腹へ深く潜り、腹に響くサブベースの帯域を引き出すボタンだと書いている。どの周波数をどれだけ動かすのかは書かれていない。ペダルのSUBは90Hzと明記されていたが、アンプのSUBが同じ帯域かどうかは、説明書からは分からない。
LUBEは、弦に「グリスを塗る」ボタンだと英語の説明書は書く。リフやリックが指板から飛び出していく、という。ドイツ語の説明書はもう一歩だけ踏み込み、WARPチャンネルの歪みの動的なふるまいを変えることで、弦が指の下を勝手に滑っていく、と書いている。
それがEQなのか、コンプレッションなのか、クリッピングの方式の切り替えなのかは、どの言語の説明書にも書かれていない。ボタンの名前は、回路の言葉ではなく、弾き手の身体の言葉で付けられている。
WARP T/Xのデモ演奏。MonumentsのギタリストJohn Browneによる。
WARP X:説明書を書いたのは、ベータテスターだった
WARP Xも、6L6を4本使う120Wの真空管ヘッドである。
説明書の冒頭には、少し変わった前書きがある。
この冊子は単なる取扱説明書ではない。書いたのはメーカーではなく「Mrs. Hansen」という筆名の私である、と前書きは名乗っている。ベータテスターとしてWARP Xを使い、近所一帯を悩ませた。その楽しさを言葉にしようと思いつき、Hughes & Kettnerに申し出た、という。
米国の通販サイトzZoundsは、2007年の時点でWARP Xを、ニューメタルの舞台で誰もが認めるヘビー級王者だ、と紹介していた。ニューメタルの看板は、真空管ヘッドになっても外されていない。
WARP TとWARP Xは、同じアンプである可能性が高い
ここで、WARP TとWARP Xの説明書を並べてみる。
本文は、ほとんど同じである。冒頭の一文、チャンネルの説明、SUBとLUBEの説明、背面のFXループやスピーカー出力の説明まで、同じ文が並ぶ。違うのは前書きと、WARP Tにある専用キャビネットの節がWARP Xに無いことくらいである。
巻末の仕様表は、さらにはっきりしている。
最大消費電力は、どちらも253Vで383VA。
入力感度は、どちらも-32dB。
ヒューズの構成も同じ。
寸法は、どちらも幅655mm、高さ280mm、奥行255mm。
重さは、どちらも20.5kg。
仕様表で違うのは、WARP Tのほうに専用キャビネットの項目が付くことと、WARP Xのほうに電源電圧ごとの電流値が書き足されていることだけである。
消費電力、寸法、重さまで一致する別設計のアンプは考えにくい。WARP TとWARP Xは、同じヘッドを外観と名前を変えて出し直したもの、あるいはごく小さな改訂版である可能性が高い。ただし、内部の部品や定数まで同じだと示す資料は無い。回路図で比べるまでは、断定はできない。
もし同じアンプだとすれば、WARPの系列は実質3種類になる。ソリッドステートのアンプ、ペダル、真空管ヘッド。真空管ヘッドは、名前を変えて2度売られたことになる。
市場は、WARPを受け入れたのか
WARPがどれだけ売れたのかを示す数字は無い。メーカーが系列を終えた理由を語った資料もない。
ただ、店頭に残った跡はある。
米国の通販サイトzZoundsのWARPハーフスタック、つまりWARP 7のページは、ウェブアーカイブに残る記録では2003年5月から2004年12月まで販売中だった。2005年1月の記録では、もう扱っていないという表示に変わっている。
WARP Xのページは、2007年の記録ではまだ販売中で、2008年5月の記録では扱いが終わっている。
ソリッドステートのWARP 7は2年に満たず、真空管ヘッドも数年で、大手の通販から消えた。WARPの名前を継ぐ製品は、その後出ていない。今では、公式サイトの生産終了品アーカイブに説明書が残るだけである。
ひとつのジャンルに合わせた製品が、ジャンルと一緒に終わった。そう書けば話はわかりやすい。
だが、理由はひとつに決められない。ニューメタルの流行が過ぎたことかもしれない。「ニューメタル専用」という看板が、ほかのメタルを弾く人を遠ざけたのかもしれない。ソリッドステートのハーフスタックという形が、そもそも売りにくかったのかもしれない。どれも、裏づける資料はない。
言えるのは、メーカーが特定の音楽の名前を正面に掲げてアンプの系列を作り、その系列が定着しなかった、というところまでである。
まとめ
アンプの系列は、ふつう回路が核にある。同じ回路が、ブルースにもハードロックにもメタルにも使われていく。
WARPは逆だった。先にニューメタルという音楽を定義し、それに合わせてソリッドステートのアンプ、ペダル、真空管ヘッドを揃えた。型番には7本目の弦を入れ、ボタンには腹に響く低音と指に吸いつく弦の名前を付けた。
回路は入れ替わったが、説明書の冒頭の一文は最後まで変わらなかった。
そして真空管ヘッドは、WARP TからWARP Xへ、おそらく中身をほとんど変えずに名前だけを変えた。看板を掛け替えても、系列は数年で店頭から消えた。
ひとつの音楽に名指しで仕える、という設計の方針は、その音楽が動いたとき、製品の居場所も一緒に動かしてしまう。WARPは、そのことを短い期間で見せた系列である。
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