ギターアンプに載っているスピーカーには、たいてい「ギター用」と書いてある。
許容入力。能率。想定ジャンル。歪み始める音量。カタログには、ギターのための数値と言葉が並ぶ。
だから、こう思いたくなる。ギタースピーカーとは、ギターの音を作るために設計された専用部品である、と。
半分は合っている。
ただし、出発点は違う。最初にあったのは音色の設計ではない。壊れないようにするための補強である。
そして、その補強のしかたが、後に「ギターらしい音」と呼ばれるものの輪郭を決めていった。
アンプメーカーは、スピーカーを作っていなかった
1950年代のギターアンプ製造を、いまの感覚で想像すると間違える。
アンプメーカーがスピーカーユニットまで自社設計する、という前提が最初からあったわけではない。回路とシャーシと箱を作り、スピーカーは既存の部品メーカーから買う。それが普通だった。
そして当時、12インチのスピーカーユニットが最も大量に作られていた用途は、ギターアンプではない。
ラジオである。より正確に言えば、家庭用のラジオ受信機や、ラジオと蓄音機を一つの家具に収めた「ラジオグラム」だった。
英国のCelestionは、まさにそういう用途向けにG12というユニットを作っていた。ギターのためではない。居間で音楽と人の声を鳴らすためのユニットである。
Voxがアンプに使っていたのも、この系統のG12だった。
つまり、最初期のギターアンプの音を作っていたのは、ギター用に設計されていないスピーカーである。ここが出発点になる。
米国側にも似た構図がある。1927年創業のJensenは、1940年代以降にFenderなどへスピーカーを供給していた。だがそれが「ギター専用に設計された製品だったのか」は、供給の事実とは別の問題であり、資料の上で簡単には確定しない。
当時のスピーカーは、まず汎用の音響部品だった。楽器の部品になったのは、その後である。
ギターアンプは、スピーカーの何を壊すのか
汎用ユニットで足りていたなら、専用品は生まれない。
問題は、ギターアンプがスピーカーに与える負荷が、ラジオの想定と違ったことにある。
違いは大きく二つある。
一つは、熱。
ラジオは、平均的にはごく小さい電力しか出さない。音楽番組を流していても、スピーカーに入り続けるエネルギーは知れている。ところがギターアンプは、出力段を目一杯まで使う。しかも歪みはじめた信号は、波形が潰れて平均電力が上がる。ピークが同じでも、コイルに入り続ける熱量が違う。
ボイスコイルは、細い線を巻いた小さな部品である。そこに熱が溜まると、線を固めている接着や絶縁が耐えられなくなる。焼けて断線するか、変形して擦る。
もう一つは、振幅。
ギターの低音弦を強く弾けば、コーンは大きく動く。何時間もそれを続ける。コーンとフレームをつないでいるサラウンド(周辺の支持部)は、その往復に耐えなければならない。ここが裂ければ、そのユニットは終わる。
さらに地味な急所がある。コーンの上を這って端子まで届く、細い引き出し線である。コーンが動き続ければ、この線は毎回振られる。金属疲労で切れる。
熱で焼ける。支持が裂ける。線が切れる。
いずれも、音が悪いという問題ではない。故障である。
最初にギタースピーカーを必要とさせたのは、音の不満ではなく、返品と修理だったと考えたほうが、この時期の経緯には合っている。
三つの補強が、一本のスピーカーを変えた
Celestionの技術者、Les WardとDerek Underdownが行ったのは、まさにその三点への対処だった。
サラウンドを強化する。
ボイスコイルの巻線を、アルミニウムから銅へ変える。熱に対する余裕を稼ぐためである。
端末の引き出し線を補強する。
この三つを施したユニットが、T530として現れる(資料によってはT0530とも表記される)。アルニコ磁石、許容入力15W。1950年代末のことである。
そして、この個体は青く塗られた。Voxを率いていたTom Jenningsの求めによる、とCelestionは説明している。
後に「Alnico Blue」「Celestion Blue」と呼ばれるユニットは、こうして生まれた。
ここで確認しておきたいのは、変更点の性格である。
サラウンドの強化。銅のボイスコイル。端末線の補強。
三つとも、「こういう音にしたい」から出た判断ではない。「この使われ方で壊れる」から出た判断である。塗装の色でさえ、音響上の理由ではなく、発注側のブランド上の要望として説明されている。
最初の専用ギタースピーカーは、音色仕様書からではなく、故障報告から生まれたことになる。
「世界初の専用ギタースピーカー」を、どう扱うか
Celestion自身は、このユニットを「世界初の専用ギタースピーカー」と説明している。
この種の言い方は、そのまま歴史の結論として受け取らないほうがよい。
理由は二つある。
一つは、出所である。これはメーカーが自社の歴史を語る文脈で出てくる表現であり、第三者が競合製品を横断比較した結論ではない。同時期に米国や欧州の他社が何をしていたかは、この資料の外にある。
もう一つは、「専用」という語の曖昧さである。
専用とは何を指すのか。ギターアンプ向けに型番を分けたことか。ギターアンプの負荷を前提に部材を変えたことか。ギターの音色を狙って周波数特性を設計したことか。
三つはまったく別の水準の話である。
T530が満たしているのは、はっきりしているのは二つ目までだ。用途に合わせて耐久設計を変えた、という意味での専用である。三つ目——狙った音色を作るための設計——は、この時点の記録からは読み取れない。
だからCSLとしては、こう整理しておく。
これは「音色専用設計の起点」ではなく、「用途専用設計の起点」である。そして、ギタースピーカーの歴史は、前者からではなく後者から始まっている。
別の説明もあり得ることは書いておく。当時のVoxやCelestionの関係者が、耐久性のことしか考えていなかったと断定する根拠はない。銅のボイスコイルに替えれば質量も抵抗も変わり、音は変わる。それを聴いて判断していた可能性は十分ある。ただし、そう記録されていない以上、意図として書くことはできない。
記録に残っているのは、壊れないようにした、という事実のほうである。
15Wという上限が、音色を作った
耐久のための設計が、なぜ音の話になるのか。
数字を一つ思い出せばよい。15W。
これは、その時期のスピーカーとしては強化された値である。同時に、後の基準から見れば小さな値でもある。
ギターアンプの出力は、この後どんどん上がっていく。会場が大きくなり、ドラムが強くなり、バンドが大音量へ向かった。アンプは30W、50W、100Wへと進む。
だがスピーカー側の許容量は、同じ速度では上がらない。
すると何が起きるか。
アンプが最大出力に届く前に、スピーカーのほうが先に限界へ入る。
コーンは追従しきれずに歪み、コイルは熱で挙動を変え、箱は共振する。演奏者が聴いているのは、真空管の歪みだけではなく、その先で先に音を上げているスピーカーの歪みでもあった。
そしてその音は、嫌われなかった。むしろ、その時代の録音の中で「良い音」として定着していった。
ここに、この記事の中心がある。
耐久上の上限として設定された値が、結果として音色の語彙になった。設計者が音色として意図した範囲ではなく、意図の外側で決まった限界のほうが、聴かれる音を決めた。
副産物である。ただし、無視できる副産物ではない。
現在も、スピーカーの選択は「早く歪ませたいか、破綻せず受け止めたいか」という軸で語られる。この軸そのものが、汎用ユニットを補強してギターへ間に合わせた時代に生まれている。
材料の値段が、二つ目の声を決めた
もう一つ、設計者の意図の外側から音を決めた要因がある。
材料費である。
初期のBlueが使っていたアルニコは、アルミニウム・ニッケル・コバルトを含む合金磁石である。コバルトの供給と価格は、楽器産業の都合とは無関係に動く。
1960年代半ば、アルニコの価格上昇を受けて、Celestionは多くのスピーカーで鉄系のセラミック磁石へ移っていった。G12HやG12Mが、その流れの中で現れる。磁石を覆う緑色のカバーから「Greenback」と呼ばれるようになったユニットである。
Blue自身も無傷では済まなかった。アルニコの高コストを理由に、1970年代に入って一度生産から退く。復活は1994年、Celestionの70周年まで待つことになる。
つまり、いま「英国的な音」として語られるスピーカーの二つの系統——アルニコの系統とセラミックの系統——は、音響上の方針の分岐としてではなく、材料調達の事情として枝分かれしている。
もちろん、そこで終わってはいない。安く済ませるために選ばれた材料が、高い許容入力という独立した価値を持ち、やがて「代用」ではない標準の音になっていく。この経緯は材料の側から別に書いた(→関連記事)。
ここで押さえたいのは、順序のほうである。
音を選んでから材料が決まったのではない。材料が決まった後で、その音が選ばれた。
そして十数年後には、失われた側の音を測定して現代の材料で作り直す、という逆方向の試みまで起きる。だがそれは、また別の話になる。
設計の理由は、仕様表に残らない
現代のプレイヤーがスピーカーに触れる入口は、たいてい仕様表かリストである。
口径。許容入力。能率。磁石の種類。モデラーのキャビネット一覧に並ぶ名前。IRファイルの名前。
そこには、数値と型番がある。
しかし、その数値がなぜその値なのか——という理由は、どこにも書かれていない。
15Wは、狙って設定された音色の値ではなく、壊れないための値だった。セラミック磁石は、音の方針ではなく価格の帰結だった。銅のボイスコイルは、熱対策だった。
こうした「なぜ」は、製品が定着するほど早く消える。残るのは結果としての音と、それを指す名前だけになる。
条件が音を決める、というところまでは、比較的よく言われる。だが条件そのものは、設計者の美学だけでできてはいない。熱、価格、供給、故障率——楽器の外側にある事情が、確実に混ざっている。
だから、ある音を「そのメーカーの思想」として読むときは、一度立ち止まったほうがよい。
思想として語り継がれているものの中に、当時どうにもできなかった事情が含まれていることは、珍しくない。
まとめ
ギタースピーカーの出発点は、音色設計ではなかった。
ラジオやラジオグラムのために作られていた12インチユニットを、ギターアンプの熱と振幅に耐えるよう補強したものが最初にある。サラウンドの強化、アルミから銅へのボイスコイル、端末線の補強。三つはいずれも故障への対処であり、青い塗装は発注側の要望だった。
その結果としてのT530/Blueは、15Wという上限を持っていた。アンプの出力が上がる中で、この上限は先に限界へ入る側の音を作り、それが時代の音として受け入れられた。
続く分岐も、音響方針より先に材料が動かした。アルニコの価格がセラミックを呼び、Blue自体は一度市場から退いて、1994年に戻ってきた。
「ギターらしい音」は、最初から狙って作られたものではない。壊れないように作った結果と、材料の都合で選ばれた結果が、後から音の語彙として整理されたものである。
そう見ておくと、スピーカーの選択が少し違って見える。どれが本物の音かではなく、どの制約の下でできた音か、という問いになるからだ。
そしてその問いのほうが、自分の音を選ぶときには役に立つ。
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