ギタースピーカーは、型番で選ぶ。
G12M、Vintage 30、C12N。名前を言えば、だいたいの音が通じる。型番が一つなら、音も一つ。そういう前提で話が進む。
だから、同じスピーカーの違う音が欲しくなったら、別の型番を探すことになる。メーカーの側も、許容入力や磁石を変えたものには、別の型番を付けて出してきた。
米国のWeberが作る12F150は、この前提から外れている。
同じ12F150という型番のまま、注文するときに、出力を25Wにするか50Wにするか、コーンを抑える塗料をどれだけ塗るか、高域を抑える部品を付けるかどうか、を選ぶ。
型番は一つで、届くスピーカーはいくつもある。
12F150という名前が表しているもの
まず、名前を分解しておく。
Weberは、自社の型名の読み方を公開している。Vintage Seriesの型名は、口径、磁石の種類、ボイスコイルの直径、コーンの種類、の順に並ぶ。
磁石の種類は、アルニコならA、セラミックならF。WeberのセラミックはストロンチウムFerriteでできているので、Fになる、と説明している。
つまり12F150は、12インチ、フェライト磁石、1.50インチのボイスコイル。最後のコーンの記号は付いていない。
製品ページの説明も、この中身と一致する。12インチ、40オンスのセラミック磁石、1.5インチのボイスコイル、リブ付きのコーン。
そして、何の代わりなのかも書いてある。シカゴ時代のJensen C12Nと、Oxfordのセラミック12インチの置き換えである。製品ページは、ブラックフェイス期のFenderの音、とうたっている。
ここで見ておきたいのは、型名が何を表していないかである。
型名に入っているのは、部品の構成だけだ。口径、磁石、ボイスコイル、コーン。どのくらいの出力に耐えるか、コーンの動きをどこまで抑えるか、高域をどう扱うかは、型名に入っていない。
それは、注文の時に決める。
名前の外側にある、四つの選択肢
12F150の製品ページには、注文のためのフォームがある。そこで選ぶ項目は次のとおりである。
インピーダンス。4Ω、8Ω、16Ω。
出力。25Wか50W。
ダストキャップ。標準か、H。
ドープ。無し、軽め、中くらい、重め。
ほかに、フレームの色も選べる。
インピーダンスと色は、どのスピーカーでもよくある選択肢である。インピーダンスはアンプとキャビネットの都合で決まり、色は見た目の好みである。
残りの三つは違う。出力、ドープ、ダストキャップは、スピーカーがどう鳴るかに直接かかわる。多くのメーカーなら、別の型番として分けるところである。
25Wと50Wは、歪み方として勧められている
出力の選び方について、製品ページは具体的な勧め方をしている。
Fender Deluxe Reverbに入れる場合。歪みにペダルを使わず、スピーカーにも少し歪んでほしいなら、25W、8Ω、軽めのドープ。歪みにペダルを使う、あるいはスピーカーにはクリーンなままでいてほしいなら、50W、8Ω、軽めのドープ。
スピーカーの許容入力は、ふつう、壊さないための余裕として読まれる。アンプの出力より大きければ安心、という数字である。
Weberの勧め方は、そうなっていない。同じアンプに対して、25Wと50Wのどちらも候補に挙げ、分かれ目を「スピーカーにも歪んでほしいか」と「歪みをペダルで作るか」に置いている。
許容入力の数字が、安全の目盛りではなく、スピーカーがどこから歪み始めるかの目盛りとして扱われている。
25W版と50W版で、内部のどの部品がどう違うのかは、製品ページには書かれていない。書かれているのは、どちらを選ぶと何が起きるか、という使い手の側の説明である。
ドープは、コーンにつけるリードである
ドープは、スピーカーのコーンの外周、エッジの部分に塗る塗料である。光沢のある、粘りのある材料だ。
Weberは、その役割を公式に説明している。エッジの寿命を延ばすだけでなく、大きな音量でコーンを抑える緩衝材として働く。
その代わりに、欠点もある。コーンの振動を抑えるので、スピーカーが持っている個性や質感も減らしてしまう。
だから、どれだけ塗るかは使い方で決まる。高いフレットで音を伸ばし、大音量で強く歪ませるなら、ドープが要る。コーンが暴れて、狙っていない音が出るのを防ぐためである。逆に、ドープの無い、抑えのかかっていない音を好む奏者もいる、とWeberは書く。
そして、一行にまとめている。使うゲインが高いほど、スピーカーに塗るドープは多いほうがよい。
WeberのC.J. Suttonは、これを犬の散歩にたとえている。重いドープは短いリード、中くらいは中くらいのリード、軽いドープは長いリード。ドープ無しは、リードを付けないのと同じで、犬がリスを見つけたら走り出して止められない。長いリードなら、犬は犬らしく自由にしていられるが、リスを追いかけようとしたときには止められる。
この記事のタイトルで、ドープを「ブレーキ」と呼んだのは、このたとえに沿っている。Weberは、そのブレーキの強さを、四段階から買う人に選ばせている。
もう一つ、ドープの説明には歴史が入っている。いちばん重いドープは「Pre-Rola」と呼ばれる。1960年代、Rolaが経営を引き継いで方法を変える前に、Celestionが使っていた制動の方法だ、とWeberは説明している。
塗り方そのものが、どの時代のどのメーカーの音を目指すかという選択になっている。
Hは、ハーモニカのH
ダストキャップは、コーンの中央にある、小さなドーム状の部品である。
主な役目は、ボイスコイルの隙間に埃が入るのを防ぐことである。ただ、高域の出方にも影響する。
Weberは、ふつうのギタースピーカーには、音楽的に最も筋が通り、ヴィンテージの性格も保てる標準のドームを使っている、と説明する。
そのうえで、高域を拡散させたい、あるいは抑えたい奏者のために、「H」のダストキャップを用意している。とくにハーモニカ奏者は、ハウリングと耳に痛い音を防ぐために高域を減らしたがる。だから「H」と呼ぶ。
ギター用のスピーカーの型番の中に、ハーモニカ奏者のための選択肢が入っている。どういう楽器を、どういう人が鳴らすかまで、注文の段階で受け止めている。
型番が、注文票になる
ここまでをまとめると、12F150という一つの型番の下に、出力が2通り、ドープが4通り、ダストキャップが2通りある。インピーダンスを除いても、16通りの組み合わせである。
ほかのメーカーでは、こうした違いは別の型番になることが多い。CelestionのCreambackは、同じ可動部に重さの違う磁石を組み合わせ、G12M-65とG12H-75という別の型番として出している。違いは、型番の段階で固定されている。
Weberは、違いを型番の外へ出した。型名は部品の構成だけを表し、コーンをどこまで自由にするか、どれだけの入力から歪み始めるか、高域をどう扱うかは、注文票の側に書く。
これは、少量生産だからできることでもあると考えられる。工場で同じものを大量に作るなら、仕様は少ないほうがよい。注文ごとに塗る量を変え、出力の違う版を作り分けるには、作る側に手間がかかる。
その代わりに、スピーカーの型番が意味するものが変わる。「12F150」と言っただけでは、どの音なのかは決まらない。12F150は、一つの音の名前ではなく、Weberが用意した設計の範囲の名前になっている。
型番だけでは、音を言い当てられない
この作り方には、裏側もある。
中古で「Weber 12F150」とだけ書かれたスピーカーがあったとき、それが25Wなのか50Wなのか、ドープがどれだけなのか、ダストキャップが標準なのかHなのかは、名前からは分からない。
選択肢の組み合わせごとの周波数特性や能率も、公開されていない。どの組み合わせがどれだけ違う音になるかは、Weberの説明と、使った人の耳に頼るしかない。
だから、12F150の音を誰かに伝えるときは、型番だけでは足りない。出力、ドープ、ダストキャップまで添えて、はじめて一台のスピーカーを指したことになる。
同じことは、ほかのスピーカーにも言える。型番の下に、製造年代の違い、工場の違い、使い込まれ方の違いがある。Weberは、その「型番の下の違い」の一部を、偶然に任せず、注文で選べるものとして表に出した。
まとめ
Weber 12F150は、Jensen C12NやOxfordのセラミック12インチの置き換えとして作られたスピーカーである。型名は、12インチ、フェライト磁石、1.50インチのボイスコイルという部品の構成を表している。
だが、同じ型番のまま、注文の時に、出力を25Wか50Wか、ドープを無しから重めまでの四段階、ダストキャップを標準かHか、を選ぶ。Weberは25Wと50Wを、壊さないための余裕ではなく、スピーカーにも歪んでほしいかどうかで勧め分ける。ドープは、コーンを抑える代わりに個性も減らすもので、ゲインが高いほど多く塗るよう勧めている。
ほかのメーカーなら別の型番に分ける違いを、Weberは型番の外、注文票の側に出した。スピーカーの型番が、一つの音の名前ではなく、設計の範囲の名前になる。
そのぶん、「12F150の音」と言うときには、何を注文したかまで言わなければならない。スピーカーの音を、型番で言い当てられるという前提そのものを、このスピーカーは静かに外している。
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