いまのアンプは、クリーンと歪みをスイッチで切り替えられる。当然の機能だ。フットスイッチひとつで、澄んだ音と激しい音を行き来する。
だが、この「当たり前」は、最初からあったものではない。一台のアンプで複数の音をまかなうという発想は、ある時期に生まれ、定着したものだ。いつ、なぜそうなったのかを追ってみたい。
かつて、アンプは一つの音だった
初期のアンプには、チャンネルという概念が、いまの意味では存在しなかった。
入力端子が複数あっても、それは音色の切り替えではなく、単なる入力の差だった。ひとつのアンプは、基本的にひとつの音を出す装置だった。歪みが欲しければ音量を上げ、クリーンに戻したければギター側のボリュームを絞る。切り替えは、演奏する側の操作でまかなっていた。
音を変えたければ、アンプそのものを持ち替えるか、手元で工夫するしかなかった。一台=一つの音、が前提だった。
「一台で複数の音」を求めた事情
やがて、一台で複数の音を出したいという要求が強くなる。
音楽が多様になり、一曲の中でクリーンと歪みを行き来する場面が増えた。ステージで何台もアンプを並べるのは現実的でない。だとすれば、一台のアンプの中に、はっきり違う音を複数持たせたい。この要求が、チャンネルという設計を押し出した。
クリーン用と歪み用で、別々の増幅経路を用意し、スイッチで切り替える。一台の中に、複数の性格を同居させる。チャンネル切り替えは、この「一台で足りるように」という要求への応答だった。
切り替えは、再現性の話でもある
チャンネルの定着には、もう一つの意味がある。
手元の操作で音を変えていた時代は、その日の調子や癖に左右された。チャンネルとして音を固定しておけば、いつ切り替えても同じクリーン、同じ歪みが出る。切り替えは、便利さだけでなく、音を確定させ、繰り返せるようにする仕組みでもあった。
これは、プリセットやプロファイルへと続く流れの、最初の一歩だと言える。音を「その場で作る」から「あらかじめ用意して呼び出す」への移行だ。多機能化は、迷いではなく再現性を増やした。
チャンネルごとに、別の音がある
ここで、記録の視点を置いてみる。
チャンネルが複数あるということは、一台のアンプの中に、複数の別の音があるということだ。同じ型番でも、どのチャンネルの、どの設定の音なのかを言わないと、音は特定できない。「そのアンプの音」と一口に言っても、中には複数の性格が同居している。
だから、アンプの音を残そうとすると、一台につき一つ、では足りないことがある。どのチャンネルの、どんな状態かまで込みで、初めて一つの音になる。
まとめ
チャンネル切り替えは、最初からあった機能ではない。一台で複数の音をまかないたいという要求と、音を固定して繰り返したいという要求が、この設計を定着させた。
それは、音を「その場で作る」から「用意して呼び出す」への移行の始まりだった。一台のアンプの音を語るとき、いまや「どのアンプか」だけでは足りない。「どのチャンネルの、どの設定か」まで言って、はじめて音が特定できる。