ギターアンプの話は、たいていヘッドの中で終わる。
何本の真空管が入っているか。整流は何か。マスターボリュームがあるか。
クリーンの余裕も、同じ場所で語られる。出力が大きいから歪まない。電源に余裕があるから崩れない。パワー段がまだ働いていないから澄んでいる。
どれも間違っていない。
ただ、音は最後にスピーカーから出る。
そしてスピーカーは、アンプが送った信号を素直に空気へ渡すとは限らない。紙のコーンは限界の手前から動きが鈍り、圧縮し、高い方を丸め、粗い倍音を足す。多くのギターアンプは、それを込みで設計されている。歪みの一部は、箱の中の発音体が作っている。
では、そこを作らせない方向へ振り切った部品があったとしたらどうなるか。
その一例が、1960年代から1970年代のFenderに載っていたJBLのスピーカーである。
ギター用として作られていないスピーカーが、最初にあった
順番を間違えないほうがいい。JBLは、ギタリストのためにこの構造を発明したのではない。
出発点は1947年のD130という15インチのフルレンジ・スピーカーで、これは家庭用の高忠実度再生や業務用の拡声のために作られている。
構造が当時としては特異だった。フレームは板金のプレスではなく鋳造で、磁石には当時まだ珍しかったAlnicoを使い、ボイスコイルは4インチという大径で、しかも平たいリボン線を立てて巻いていた。コーンは浅く、中央には4インチのアルミ製ドームが付いていた。
Harman/JBLの公式史は、Alnicoの採用について、D130を高能率にし、より大きな出力を出せるようにしたと説明している。そしてこれらの工夫の結果として、一般的なスピーカーより10dB大きく鳴り、かなり大きな電力を扱えるようになったとする。
10dBは小さな差ではない。同じアンプにつないだだけで、音量が別物になる領域である。
ここで確認しておきたいのは、この設計の目的が「良いギターの音」ではないことだ。能率を上げること、壊さずに電力を受けること。その2つが先にある。
ギターに向いた性質は、あとから見つかった。
工場より先に、演奏する側が載せ替えていた
見つけたのは奏者だった。
公式史は、ギタリストたちが純正のスピーカーを外してJBLのD130へ載せ替えるようになった動機を、より大きく、よりクリーンな音を得るためだったと書いている。
大きいだけではない。大きくて、しかも濁らないことが欲しかった。
1950年代後半のギターアンプは、バンドの音量が上がるたびに先に潰れた。潰れた音を良いと感じる文化はまだ育っていない。歪みが価値になるのは、もう少し後のことである。
需要が先にあり、既製品の中から条件を満たすものが選ばれた。
そして1959年、Fenderはこれを工場のオプションとして扱いはじめる。公式史は、JBLスピーカーへの需要の高まりに応えるため、Leo FenderがD130と、その12インチ版であるD131を工場アップグレードとして提供しはじめたと記述している。
順序としては、メーカーの提案を市場が受け取ったのではない。市場の改造を工場が追認した。
サーフ・ギターのDick Daleが、D130をアンプへ入れるようLeo Fenderに言ったという逸話も、同じ公式史に出てくる。ただし公式史自身がこの話へ「そう言われている」という留保を付けている。逸話として読んでおくのが正しい。
12インチの中に、11ポンドの磁石が入っている
Fenderとの協働のなかで、JBLは既存のD130とD131を楽器用途へ作り直した。そうして生まれたのがF Seriesである。
15インチのD130F。12インチのD120F。10インチのD110F。そしてベース用の15インチであるD140F。公式史は、ボイスコイルを用途へ合わせて調整し、演奏スタイルや楽器の違いに対応する設計にしたと説明している。
このうち12インチのD120Fが、いちばん多くのギタリストの目に触れた。
1970年のJBLのカタログを開くと、仕様表に数字が並んでいる。
公称12インチ。磁気回路の重量11ポンド。8Ω。許容入力100W。ボイスコイル径4インチ。ボイスコイルはエッジワウンドのアルミリボン。磁束密度12,000ガウス。総磁束275,000マクスウェル。
カタログはD120Fを、11ポンドの磁気回路を持つ堅牢な12インチのフルレンジ・スピーカーであり、たいていの15インチより大きな電力を扱えると説明している。
数字だけだと、どの程度の話なのか掴みにくい。同じ12インチのギタースピーカーと並べるとわかる。
Celestionの公式仕様によれば、G12M Greenbackは公称12インチ、許容入力25W、能率98dB、シャーシはプレス鋼板、磁石はセラミックで重量0.99kg、ボイスコイル径1.75インチ、ボイスコイルは丸線の銅、周波数レンジは75Hzから5000Hzである。
磁石が0.99kgと11ポンド。ボイスコイルが1.75インチと4インチ。シャーシがプレス鋼板と鋳造。上限が5kHzと、アルミのドームが受け持つ領域。
同じ用途、同じ口径の部品として並べているのに、設計の前提が違う。
ここは慎重に扱いたい。25Wと100Wは測定の規格も年代も違うので、数字の大小をそのまま性能差として読むことはできない。現行のGreenbackが1960年代の個体と同一仕様でもない。
それでも、磁気回路とボイスコイルにこれだけ質量を投じた部品が、何を狙っていたかは読める。
「歪まない」は、性能ではなく担当の話である
JBLのカタログは、エッジワウンドのリボン・ボイスコイルについて、平角線を立てて巻くことで能率が上がり、帯域が大きく広がり、瞬間的な過大入力に耐えられるようになると書いている。
磁石についても、Alnico Vが供給するエネルギーを、性能へ最も寄与する1箇所、つまりボイスコイルのギャップへ集中させると説明する。
高域を受け持つのは、ボイスコイルへ直結されたジュラルミン合金のセンタードームである。カタログは、これを油圧と空気圧で正確に成形していると書いている。
これらが揃うと何が起きるか。
大きな信号を入れても、発音体のほうが先に音を丸めなくなる。アンプが澄んでいれば澄んだまま出るし、アンプが歪んでいれば歪みの形がそのまま出る。
つまり、歪みの担当がアンプ側へ寄る。
Harman/JBLの公式史は、JBLを積んだFenderの音を「とりわけ大きく、明瞭で、噛みつくような音」と書いている。この「噛みつく」という言葉が正直なところで、これは柔らかい音の設計ではない。潰れずに前へ出てくる音である。
そして、これは優劣ではない。
Celestionの側は、限界の手前でコーンが動きを変えることも含めて音色として設計している。弾き手が「気持ちよく潰れる」と感じる領域を持っているのはこちらだ。ロックのギターの多くは、そこを使って鳴っている。
どちらが上かではなく、歪みを誰に担当させるかという分岐である。
同じ分岐は、後の時代にも繰り返し現れる。大出力で高能率、鋳造フレームという構成を選んだElectro-VoiceのEVM12Lは、この系譜の中で読める(→関連記事)。
なお、許容入力の読み方についてはカタログ自身が注意書きを置いている。JBLは、定格の許容入力とは、推奨条件下で損傷なく吸収できる連続プログラム信号の量を指し、瞬間的な耐入力はそれよりかなり大きいと説明している。
1970年の100Wを、現在のスピーカーの100Wと並べて比較することはできない。当時の規格で書かれた数字である。
どのアンプに載っていたのか
公式史が挙げる搭載例は具体的である。
ShowmanとDual Showmanには、リード用としてD130Fが載り、ベース用途ではD140Fも選べた。TwinとTwin ReverbにはD120Fが2基。Super ReverbにはD110Fが4基。
Fenderの中でも、大きな音を出すことを前提にした機種に寄っている。
公式史は、この組み合わせがJerry Garcia、Duane Allman、Dick Daleらに使われたとする。
ただし、これは企業が自社の歴史として書いた記述である。誰がどの時期に、どの作品で、どのスピーカーを鳴らしていたかという単位の証言ではない。ここでは「そう記されている」以上には踏み込まない。
確かなのは、Fenderの大きいほうの機種に、歪ませないことを狙った終端を選ぶ選択肢が用意されていたことだ。
同じヘッド、同じ回路で、スピーカーだけが違う個体が並んで売られていた。そして値段の高いほうが、より歪まない側だった。
クリーンの余裕が回路だけの話なら、この選択肢は存在しない理由がない。
1970年のカタログは、音色ではなく「正確さ」を売っていた
このカタログを読んでいて、いちばん引っかかるのは数字ではない。言葉のほうである。
JBLは、いま楽器を演奏する人のために専用のスピーカーが作られたと書き、それを、演奏者が作った信号をそのままの正確さで再生するスピーカーだと説明する。
終わりのほうでも同じことを言っている。厳密な製造技術と厳しい公差の結果として、比類のない正確さを備えた楽器用スピーカーの系列ができた。演奏者が入れたものを、そのまま出すスピーカーである、と。
楽器用スピーカーの広告でありながら、色を付けるとも、太さを足すとも、心地よく歪むとも書いていない。
語彙が正確さで統一されている。
この言い回しは、現在のFRFRやIR再生用スピーカーの説明とよく似ている。似ているという事実は面白いが、ここで血統を主張するのは行き過ぎになる。1970年のJBLが後年のモデリング時代を見通していた証拠は何もない。
この記事が見ているのは、系譜ではなく言葉の位置である。
「楽器用スピーカーは音を作る部品である」という前提は、業界の初めからあったわけではない。少なくともこの1冊は、楽器用スピーカーを「信号を正確に外へ出す部品」として売ろうとしていた。ギタースピーカーの役割の置き方には、はじめから幅があった。
提案したのは、クラブでPAを回していた社員だった
もう一つ、この系列の出どころについて本人の証言が残っている。
設計者のHarvey Gerstは、後年のインタビューで、JBLに勤めていたある日、自分から「楽器用スピーカーの系列を出さないか」と言い、上司が「わかった、やれ」と答えたと回想している。それがD130fと120fになったという。
Gerstは当時、自分でギターを弾き、クラブで音響を回していた。市場調査の結果として出てきた企画ではない。現場を知っている人間が社内で言い出した話である。
本人はその後JBLを離れ、Acoustic Control社で8年間アンプを設計することになる。大出力で歪まないソリッドステート・アンプを作っていた会社だ。
高能率で歪まない発音体を起案した人物が、大出力で歪まないアンプの設計へ移っている。
きれいに繋がって見えるが、本人はこの2つを一つの思想として語っていない。因果として書くのはやりすぎなので、経歴として置いておく。
それでも、この時代の「大きくて崩れない音」が、回路や部品のカタログからではなく、演奏と拡声の現場から出てきたものだったことは伝わる。
系列が終わっても、分岐のほうは残った
JBLの楽器用スピーカーは、その後K SeriesとE Seriesへ引き継がれた。同社の旧製品一覧には、D110FからD140Fまでと並んで、E110-8、E120-8、E130-8、E140-8、K110からK151までが載っている。
そして公式史は、JBLが2000年に楽器用スピーカーの生産を終え、スタジオ、ツアー、業務用の統合的な音響へ注力する道を選んだと記している。
53年で1つの系列が閉じた。
だが、そこで終わったのは製品であって、考え方のほうではない。
大きな音を歪ませずに出したいという要求は、その後もずっと残った。高能率で高耐入力の12インチという枠組みは、他社の交換用スピーカーへ引き継がれている。歪みを発音体ではなくアンプの中で完結させるという設計は、ハイゲイン・アンプの標準になった。そして、入力された信号をそのまま外へ出すという要求は、モデラーとIRの時代に別の形で戻ってきた。
同じ問題が、部品を変えながら何度も出てくる。
スピーカーを選ぶことは、歪みの置き場所を選ぶこと
ヘッドの型番だけで音を語ると、この分岐は見えない。
同じTwin Reverbでも、純正のスピーカーで鳴らすのと、11ポンドの磁石と4インチのボイスコイルを持つ終端で鳴らすのとでは、音量を上げたときの崩れ方が違う。崩れないことを選んだ人は、その分の歪みを別の場所で作るか、作らないことを選んでいる。
音作りの相談で、最初にヘッドの候補が並ぶのは自然だ。
ただ、そこで「クリーンの余裕が欲しい」という話が出たなら、余裕を回路だけで買う必要はない。どこで潰れるかを決めているのは、信号が通る一番最後の部品でもある。
1959年に純正のスピーカーを外していたギタリストたちは、そのことを理屈より先に知っていた。
自分の音が大きくしたときにどこから崩れるのかを一度わかっておくと、次に何を替えるべきかの見当がつく。
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