Kemperを使うとき、多くの人が最初に触るのはRigの選択である。
次にGain。次にEQ。
その先にあるエフェクト。
Inputは、たいてい後回しになる。
画面の左端に小さく置かれた、地味なセクションである。設定したことを忘れている人も少なくない。
だが、同じプロファイルが人によって違って聞こえる理由の多くは、ここにある。
Inputは「入口」そのものである
Kemperの信号は、ギターから始まる。
ギターの出力は、まずInputセクションを通る。Rigに届くより前である。
つまりInputは、プロファイルの手前にある関所のようなものである。
ここで信号がどう受け止められるかが、その後の歪み方を決める。
Rigをいくら選び直しても、入口の条件が違えば、出てくる音は同じにならない。
アンプの前にエフェクターを置くか置かないかで音が変わるのと、構造としては同じである。違うのは、それがデジタルの「入口」で起きているという点だけである。
だからこそ、Inputは軽視できない。
Clean Senseとは何を揃える設定なのか
Inputの中心にあるのが、Clean SenseとDistortion Senseである。
まずClean Senseから整理する。
Clean Senseは、クリーンな音の音量感を揃えるための設定である。
ギターによって出力レベルは違う。シングルコイルとハムバッカーでは、弦をはじいたときにアンプへ送り込まれる信号の強さが違う。
同じプロファイルでも、出力の強いギターをつなぐとクリーンが大きく聞こえ、出力の弱いギターでは小さく聞こえる。
Clean Senseは、この差を埋めるための調整である。
出力の弱いギターならClean Senseを上げ、強いギターなら下げる。そうすることで、複数のギターをつないでもクリーンの音量感が揃う。
ここで重要なのは、Clean Senseが「歪みの量」を直接いじる設定ではない、ということである。
これはクリーン側の基準を合わせるための設定である。歪みのキャラクターを決める設定ではない。
Distortion Senseは何をしているのか
歪み側に関わるのが、Distortion Senseである。
Distortion Senseは、ギターの出力レベルが歪み量へどう反映されるかを調整する。
値を上げると、入力の強いギターほど深く歪む方向になる。下げると、ギター出力の違いによる歪み量の差が小さくなる。
工場出荷時の基準は、特定のギターを想定して決められている。
そこに自分のギターをつなぐと、想定より強い信号、あるいは弱い信号が入る。すると、プロファイルが「設計時に受け取っていた信号」とは違う信号を受け取ることになる。
歪みは、入力の強さに敏感である。
少し強く入れば、歪みは深くなる。少し弱く入れば、歪みは浅くなる。
Distortion Senseは、その敏感さをどう扱うかを決めるノブである。
多くの場合、ここはデフォルトのままでよい。ただし、出力が極端に高いギターや低いギターを使うときには、見直す価値がある。
なぜギターを替えると反応が変わるのか
ここで一度、プロファイルそのものに立ち返る。
Kemperプロファイルは、何でできているか。
プロファイル本体は、主にKemperの解析信号と、アンプ・キャビネット・マイクの応答によって作られる。
作るときに弾いたギターの「音色そのもの」が、プロファイルの中に固定して焼き付くわけではない。
固定されるのは、アンプとキャビネットとマイクがどう反応する箱なのか、という応答の方である。
その箱に、演奏時、自分のギターの信号が入る。
だから、完成したプロファイルの反応は、演奏時に入力されるギター信号によって変わる。
同じプロファイルでも、出力の高いギターで弾けば押し込まれて歪み、低いギターで弾けば余裕が残る。ピックアップの種類、ボリュームの位置、弾く強さ。それらはすべて、入口へ届く信号の違いになる。
「このギターでプロファイルした音」という言い方は、正確ではない。
正しくは、こうなる。
このプロファイルを演奏するときの反応は、使用ギターの入力信号によって変わる。
そして、その入力信号を最初に受け止めるのが、Inputセクションなのである。
設定を「揃える」と「変える」は別である
ここで誤解を避けたい。
Inputを調整する目的は、音を良くすることではない。
基準を揃えることである。
複数のギターを持ち替えても音量感や歪み量の出方が揃っていれば、プロファイルそのものの違いを正しく比較できる。
逆に、入口の条件がバラバラだと、プロファイルの違いを聞いているのか、ギター差を聞いているのか、区別がつかなくなる。
Clean SenseとDistortion Senseは、その区別をつけるための道具である。
どちらが正しい設定というものはない。ただし、何を基準にしているのかは、はっきりさせておいた方がよい。
基準があいまいなまま「このプロファイルは歪みすぎる」「思ったより細い」と判断すると、それはプロファイルの評価ではなく、入口の評価になっている可能性がある。
CSLが入力条件を揃える理由
CSLは、実機の真空管アンプを収録し、Kemperプロファイルとして提供している。
収録するとき、入口の条件を揃えることを重視している。
理由は、ここまで書いてきたことと同じである。
入力信号が違えば、同じアンプでも違う歪み方をする。だから、何の信号で記録したのかを揃えておかなければ、後から条件を比較できない。
CSLでは、プロファイル作成時のリファインにもリアンプを使っている。
毎回人間が弾くのではなく、同じDI信号を使う。そうすることで、入力条件を揃えるためである。
人が弾くと、その日のピッキングや手癖が入力信号に乗る。それ自体は悪いことではない。だが、条件を揃えて記録したい場面では、揺れになる。
同じDI信号をリアンプして入れれば、入口は毎回同じになる。
この考え方は、使う側のInput設定とも地続きである。
CSLが収録時に入口を揃えるのと、演奏者がInputで自分のギターの基準を揃えるのは、向きが逆なだけで、同じことをしている。
どちらも、「プロファイルの違い」と「入力信号の違い」を混ぜないための作業である。
まとめ
KemperのInputは、地味なセクションである。
だが、プロファイルの手前にある入口である。
Clean Senseは、ギター出力の差によるクリーンの音量感を揃える設定である。Distortion Senseは、入力の強さが歪み量へどう反映されるかを調整する設定である。
どちらも、音を派手に変える機能ではない。基準を揃える機能である。
Kemperプロファイルの反応は、演奏時に入力されるギター信号によって変わる。だから、入口をどう設定しているかを把握しておくことには意味がある。
プロファイルを評価する前に、まず入口を見る。
そうすると、聞いているのがアンプの違いなのか、自分のギターの違いなのかが、少しずつ切り分けられるようになる。
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