軽いスピーカーは、音が違うのではないか。
ネオジム磁石のギタースピーカーには、いつもこの疑いが付いてくる。軽さは便利だ。だが、便利さと引き換えに何かを手放しているのではないか。そう考える奏者は少なくない。
2016年にCelestionが出したNeo Creambackは、この疑いに正面から答える形で売られた。音は変えない。重さだけを半分にする。新しい音を名乗らず、既存のCreambackの音を保つことを約束した。
ただ、この約束には一つ引っかかる点がある。
Creambackは1機種ではない。G12M-65とG12H-75の2機種がある。そしてこの2機種を分けているのは、ほかならぬ磁石である。
磁石を替えて軽くするスピーカーが、磁石の違いで分かれていた2機種の、どちらの音を保つのか。
この記事は、その問いから始める。
Creambackは、そもそも何を保つための系列だったのか
話はGreenbackから始まる。
CelestionのG12Mは、同社が最初に作ったセラミック磁石のギタースピーカーである。1965年に登場し、磁石の背面を覆う緑のカバーから「Greenback」と呼ばれるようになった。
当時のG12Mは20Wだった。それで十分に頑丈だと思われていた期間は、長く続かなかった。2〜3年のうちに30Wの要求が出て、CelestionはG12Hで応えた。ここから許容入力の競争が始まる。
Celestion自身、ギタースピーカーの歴史を、出力が上がり続ける要求に対して音色を追いかけてきた歴史だと要約している。
問題は、出力を上げるための設計変更が、音も変えてしまうことだった。高い入力に耐える部品で作れば、低出力の時代のスピーカーとは違う音になる。「ヴィンテージの音」がほしければ、低出力のスピーカーを使うしかない。長いあいだ、そういう状態が続いた。
2011年、Celestionはここに課題を立てた。オリジナルのG12Mにできるだけ近い音で、現代のアンプに耐える許容入力を持つスピーカーを作る。
答えがG12M-65 Creambackである。65W。Greenbackに似た音。
Celestionは、同一の音ではないとはっきり書いている。100%同じにするのは現実的に不可能で、同じ家族に属する音、Greenbackの兄貴分と考えてほしい、という説明である。
名前にも、この「家族」の考え方が出ている。1970年代初頭、緑のカバーの材料が切れたときに、黒や灰色やクリーム色のカバーが使われた時期があった。色が違っても中身はGreenbackだった。Celestionは、その時代の「Creamback」という呼び名を、家族のつながりを示すために掘り起こした。
つまりCreambackは、最初から「条件を一つ変えても、音の家族は保つ」ための系列だった。2011年に変えた条件は、許容入力である。
MとHの違いは、磁石だった
では、G12MとG12Hは何が違うのか。
Celestionの説明は明快である。1960年代、同社はG12Mの可動部に「H(Heavy)」の磁石を組み合わせ、許容入力を上げた。これがG12Hで、許容入力だけでなく、音もはっきり違うものになった。
Creambackでも、同じ手順が繰り返された。G12M-65 Creambackの可動部に、H磁石を組み合わせる。こうして75WのG12H-75 Creambackができた。
製品ページの仕様を並べる。
G12M-65 Creamback。磁石0.99kg。本体3.6kg。感度97dB。
G12H-75 Creamback。磁石1.42kg。本体4.7kg。感度100dB。
Celestionの説明では、H-75はM-65より低域が締まり、高域はパンチがあってダイナミックになる。H磁石が、Creambackの音に焦点と厚みを足す。
ここで大事なのは、この系列では磁石が、音色を切り替える変数そのものになっていることだ。
コーンを替えたのではない。ボイスコイルを替えたのでもない。同じ可動部に、重さの違う磁石を付けた。それで2機種になった。
ネオジムは、その変数を重さから切り離す
ネオジム磁石は、同じ磁力をフェライト(セラミック)よりはるかに小さく軽い磁石で得られる。
仕様表の数字がそれを示している。磁石だけで、M-65は0.99kg、H-75は1.42kgある。Neo Creambackは、本体まるごとで1.9kgである。磁気回路の外径は、M-65が150mm、H-75が168mm。Neo Creambackは124mmまで小さい。
ここで、最初の問いに戻る。
MとHの区別は、フェライトの磁石の重さの違いで作られていた。ネオジムでも、磁力の強い磁気回路と弱い磁気回路は作れるだろう。だがそれは、もう「重い磁石」と「軽い磁石」の違いではない。重さという物差しが、音の違いを表さなくなる。
では、Neo Creambackはどちらの音を保ったのか。
Celestionの答えは、どちらでもない、だった。
製品ページは、Neo CreambackをG12M-65とG12H-75の「間」にボイシングしたと書く。発売後のブログでは、CreambackのMとHを混ぜ合わせて超軽量の箱に詰めたようだ、とも説明している。
型番にも、それが表れている。正式名はG12 Neo Creamback。G12の後ろに、MもHも付いていない。
「間」は、仕様の平均ではない
「間」と聞くと、数値の中間を想像しやすい。だが仕様表を並べると、そうなっていない。
感度は97dB。M-65と同じで、H-75の100dBとは3dB違う。
周波数範囲は75〜5000Hz。これもM-65と同じ。H-75は70Hzからである。
共振周波数は3機種とも75Hz。ボイスコイルは3機種とも1.75インチの丸線銅。
許容入力は60W。M-65の65WとH-75の75Wの、どちらよりも低い。なお、2016年の出荷発表では65Wとされていて、現行の製品ページは60Wとしている。
数値だけを見れば、Neo CreambackはM-65側に寄っている。許容入力はむしろ下回る。
それでもCelestionは「間」と言う。
ここから読み取れるのは、「間」が仕様の補間ではなく、聴感上のボイシングの目標として置かれているということだ。低域の押し出し、声のような中域、滑らかな高域。どれもCreambackの説明にいつも出てくる言葉である。Neo Creambackは、それらを持つことを目標に設計された。
Celestionは同じブログで、Creambackと同じヴィンテージの手触りを持ちつつ、独自の特徴もいくつかある、と書いている。完全な同一を主張していない。
この書き方は、2011年のG12M-65と同じ型をしている。あのときも、Greenbackと100%同じではないが同じ家族だ、と言った。
互換の単位が、1本から系列へ移った
ここまでをまとめると、Neo Creambackの約束は、最初に見えていたものと少し違う。
「G12M-65 Creambackの軽量版」ではない。
「G12H-75 Creambackの軽量版」でもない。
約束されたのは、Creambackという系列の音との互換である。1本のスピーカーを差し替えられる、という互換ではない。
これは言葉のすり替えではない。筋の通った選択だったと思う。
MとHが磁石の重さで分かれていた以上、磁石を軽くした時点で、どちらか一方の忠実な軽量版を名乗る根拠は弱くなる。Celestionは、どちらかに寄せて名乗る代わりに、系列全体の性格のほうを設計目標に置いた。
Creambackの系譜を並べると、この流れが見える。
Greenbackから、Creambackへ。変えた条件は、許容入力。
Creambackから、Neo Creambackへ。変えた条件は、重量。
どちらの段でも、保つとされたのは部品の仕様ではなく、音の家族だった。
軽さは、誰の利益だったのか
軽さの利益は、はっきりしている。
Neo Creambackの1.9kgは、M-65の3.6kgのおよそ53%、H-75の4.7kgのおよそ40%にあたる。公式の「約半分」は、M-65との比較に近い。
4発積みの4×12に換算すると、M-65と比べて約6.8kg、H-75と比べて約11.2kg軽くなる。2×12でも、3.4kgから5.6kgの差になる。
この差は、客席には聞こえない。聞こえるのは、キャビネットを運ぶ奏者の腕と腰だけである。
Celestionの当時のCEO、Nigel Woodは、顧客の声を注意深く聞いて応えてきた伝統の延長としてNeo Creambackを紹介し、クラシックなCreambackの音をすべて、非常に軽いパッケージに収めたと述べている。
聞こえない利益のための技術だから、音が変わったと思われては困る。Neo Creambackが「新しい音」を名乗らなかったのは、この技術の性格からして自然なことだった。
同じネオジムで、別の音を売ることもできた
ただし、ネオジムを使えば必ず「既存の音の軽量版」になるわけではない。Celestion自身が、逆の使い方もしている。
Neo 250 Copperbackは、250Wで2.3kgのネオジム機である。こちらは、Celestionらしいコーンのブレークアップを持たないことを売りにしている。製品ページは、これは「ブラウンサウンド」ではない、とはっきり書く。透明さを求め、中域の声っぽさを抑えたい奏者のための、色付けの少ない終端として出されている。
いっぽうNeo V-Typeは、既存のV-Typeの音のまま50%近く軽くした、という説明で出されている。こちらはNeo Creambackと同じ型だ。
つまり、ネオジムそのものは、音について何も宣言していない。同じ磁石材で、「同じ音を軽く」も「新しい音を軽く」も作れる。どちらにするかは、系列ごとにメーカーが選んでいる。
Neo Creambackで選ばれたのは、前者だった。そして前者を選んだとき、MとHという分岐をどう扱うかという問題が、この系列にだけ生じた。
似た判断は、ほかのメーカーにもある。JensenのVintage Neoは、1960年代には存在しなかったネオジムを使いながら、オリジナルのJensenと同じ音と手応えを目標にすると説明している。材料が旧来のものでなくても、目標を音に置くことで系譜に入れる。Neo Creambackは、その目標の置き方を、系列の内側の分岐にまで持ち込んだ例と言える。
本当に同じ音なのか
最後に、限界をはっきりさせておく。
Neo CreambackがM-65やH-75と「同じ家族の音」であるというのは、メーカーのボイシング目標である。独立した同一条件の比較や、ブラインドの聴き比べで確かめられた性質ではない。
また、変わったのは磁石だけではない可能性がある。磁気回路の大きさも形も違う。仕様表で比較できるのは、ボイスコイルの径と材質、共振周波数、感度、周波数範囲までである。コーンやサスペンションに手が入っているかどうかは、ここからは言えない。
この記事が扱ったのは、音が同じかどうかの判定ではない。メーカーが何を目標に置き、その目標がどの単位で約束されたかである。
その範囲で言えることは一つある。Neo Creambackは、1本のスピーカーの軽量版として出されたのではない。MとHという2つの音を持つ系列の、その間に、新しく1点を打つ形で出された。
まとめ
G12MとG12Hは、同じ可動部に、重さの違う磁石を付けて作り分けられてきた。Creambackの2機種も同じ手順で作られた。この系列では、磁石の重さが音の違いを表す物差しだった。
ネオジムは、その物差しを使えなくする。
Celestionは、Neo Creambackをどちらか一方の軽量版と名乗らせず、MとHの「間」にボイシングした。仕様表を見れば、その「間」は数値の平均ではない。聴感上の目標として置かれた位置である。
型番からMとHが消えたのは、そのためだと読める。かつて型番の文字は、磁石の違いを表していた。Neo Creambackで残ったのは、「Creamback」という、音の家族の名前だけである。
奏者の側から見れば、得たものは具体的だ。Creambackの音を選ぶことと、Creambackの重さを運ぶことを、切り離せるようになった。
軽いスピーカーは、別の音でなければならないのか。
Neo Creambackの答えは、1本と同じ音ではない、だが家族の音ではある、というものだった。その答え方自体が、Creambackという系列が2011年から続けてきた作り方と、同じ形をしている。
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