1977年、Guitar Player誌のインタビューで、Steven RosenはJimmy Pageにこう言った。「Communication Breakdown」のギターは、小さな靴箱の中から鳴っているように聞こえる。
1969年に出たLed Zeppelinの1stの収録曲である。
Pageの答えは短かった。アンプを小さな部屋に置いた。ヴォーカル・ブースのような、ごく狭い場所である。そして、離れた位置からマイクで録った。
続けてPageは、ある言葉を引いている。
距離が奥行きを作る。
Pageはこれを自分の発明とは言っていない。とても古い録音の格言だ、と言っている。そして、その格言を自分のギターだけでなく、バンドの録音全体で何度も使ってきたと述べている。
Led Zeppelinの音は、よく「巨大」と形容される。だがPage自身が録音について語るとき、出てくる言葉は大きさではない。距離であり、部屋である。
1stのギターは、小さなアンプで録られた
同じインタビューで、Pageは1stで使ったアンプを答えている。
小型のSuproである。Harmonyのようなアンプだと思う、と言い、1stはすべてそれで録ったと述べている。ギターはTelecasterだった。
Rosenは、そのTelecasterの音がLes Paulそっくりに聞こえる、と言った。
Pageの説明はこうである。それはアンプのせいだ。違うアンプ、マイクの置き方、そういったものの違いにすぎない。歪むところまで上げて音を伸ばせば、Les Paulのように聞こえるのは当然だ、という。
ギターの種類より、アンプとマイクの方が音を決めている。Pageはそう言っている。
Suproはその後も使い続けた。1971年の「Stairway to Heaven」のソロは、しばらく使っていなかったTelecasterを引っぱり出し、Suproにつないで弾いたものだという。
ずっと後のTotal Guitarのインタビューで、Pageはこのアンプの型番をSupro Coronado 1690Tと特定している。Telecasterにはとてもよく合う。だがGibsonのLes Paulをつなぐと、かなり歪んだ音になった。スタジオ・ミュージシャンとして働き始めた頃、その音は当時の依頼主には過激すぎると気づいた、とも振り返っている。
小さなアンプは、小さな音のための選択ではなかった。Pageにとっては、すでに十分に過激な音を出す道具だった。
小さな部屋に置き、離れて録る
「Communication Breakdown」に戻る。
アンプは狭いブースの中にある。マイクはその近くではなく、離れた位置にある。
Pageはこの方法を、ふつうのやり方と対比して説明している。
アンプを録るとき、人はふつう近くにマイクを立てる。スピーカーの前に置くだけである。Pageはそれに加えて、ずっと後ろにもう1本マイクを立てた。そして2本を混ぜ合わせ、位相の問題を取り除いた、と述べている。
位相の問題とは、こういうことである。
近いマイクと遠いマイクには、同じ音が少しずれた時刻に届く。2本をそのまま混ぜると、ある高さの音は強め合い、別の高さの音は打ち消し合う。音が細くなったり、こもったりする。
だから2本のマイクを使うなら、混ぜ方そのものが音作りになる。
近いマイクは、アンプの直接の音を拾う。遠いマイクは、部屋に一度広がってから戻ってきた音を拾う。その2つの割合を決めることが、Pageの言う奥行きの調整だった。
靴箱のようだ、というRosenの形容は、実はこの方法を言い当てている。小さな部屋の響きを、離れたマイクで拾えば、音は小さな部屋の中から鳴っているように聞こえる。
Pageは、それを狙って作っていた。
EQのつまみではなく、マイクの位置で
この答えの中で、Pageはもう一歩踏み込んでいる。
楽器が正しく鳴っているなら、スタジオでEQを使う必要は本来無いはずだ。音は全部マイクで作るべきだ、というのである。
さらにPageは、みんなEQのつまみに夢中になりすぎて、マイクの置き方という学問を丸ごと忘れてしまった、と言う。それを知っている人はあまり多くない。
その知識を持っていた人として、Pageが名前を挙げたのはLes Paulだった。そして、スタジオにマイクが1本か2本しか無かった時代に、初期のロックのレコードを作った人たちである。
マイクが少なければ、録った後に1つの楽器だけを直すことは難しい。だから録る前に、楽器の置き場所とマイクの置き場所で、音の釣り合いを決めておく必要がある。
Pageが「古い格言」と呼んだものは、その時代の技術である。
1977年のPageは、それを過去の作法としてではなく、いまも使える方法として語っている。EQで足したり削ったりする前に、マイクを動かす。音の性格を決めるのは、つまみではなく位置だという考え方である。
部屋の端から端までの時間
Rosenはもう1曲、1970年の3rdに入った「Out on the Tiles」について、何の効果を使っているのかと尋ねている。
Pageは、それこそさっき話したことだと答えた。近接マイクと遠方マイク。それがアンビエンス、つまり部屋の響きだという。
ここでPageは、部屋の響きをかなり具体的に言い表している。部屋の一方の端からもう一方の端まで、音が届くのにかかる時間。その時間差も一緒に録って入れる、というのである。
響きとは、ここでは時間のことである。
広い部屋ほど、壁から戻ってくる音は遅れる。その遅れが、聞き手に部屋の大きさを伝える。Pageは、その遅れを機械で足すのではなく、実際の部屋から録った。
Pageは録音の考え方そのものも、ここで述べている。部屋の音を生のまま捉え、その瞬間の感情ごと伝えようとすること。それが本質であり、だから部屋の音はできるだけ多く録らなければならない、という。
「Communication Breakdown」では、小さな部屋の響きを録った。「Out on the Tiles」では、部屋の端から端までの時間を録った。
部屋の大きさは曲ごとに違う。だが、部屋を録るという方法は同じである。
ドラムにも、同じことを言っている
この考え方は、ギターに限らない。
2014年、PageはGQのインタビューで、John Bonhamのドラムについて話している。Bonhamは、音が遠くまで届くようにドラムを調律する技術者だった、とPageは言う。だから、ドラムセットの真ん前にマイクを置きたくはなかった。
そしてPageは、37年前と同じ言葉を使っている。音の上では、距離が奥行きを作る。ドラムは生の楽器なのだから、部屋の響きを使うことがとても重要だった、という。
Pageはさらに、BonhamがPaul McCartneyのソロ作で叩いた曲を例に出している。聴いても、それが彼だとは分からないだろう。録り方のせいで、すべてが閉じてしまっている、と述べている。
同じ人が同じように叩いても、マイクが近すぎれば別人の音になる。
Pageの言い方では、Bonhamの音の一部は、Bonhamの手の中ではなく、ドラムとマイクの間の空間にあった。
ステージのアンプは、別の理由で大きくなった
では、ステージに並んだ大きなアンプは何だったのか。
1977年のインタビューで、Pageはステージの機材も答えている。Marshallの100Wのヘッドを、ニューヨークで200Wに改造したもの。キャビネットは4台である。
アンプの設定を聞かれると、Pageは、会場の響き次第でボリュームは3くらいまで、あとはごく普通だと答えている。
200Wのアンプが、ボリューム3前後で鳴っていた。
ここでも、Pageは会場の響きを基準にしている。部屋が先にあり、アンプはそれに合わせて回される。
アンプが大きくなった理由も、Pageは語っている。
Yardbirds時代はVox AC30を使っていた。背面にトレブルブースターの付いたものである。1977年の時点でも、AC30はよくできていると評価している。新しいAC30を4台取り寄せて試し、大きく並べるつもりだったという。
だが、Bonhamのドラムがあまりに大きく、AC30ではその上へ抜けてこなかった。
Total Guitarのインタビューでは、Marshallへ移った経緯を説明している。1969年、目の前には大量の仕事があり、ロード・マネージャーは、アンプが壊れて代わりが手に入らなくなることをひどく心配していた。
周りから、他のバンドはみんなMarshallを使っていると言われた。Pageはその前にHiwattを使い、それからMarshallに移った。理由は、言われたことがまったく正しかったからである。どこかで壊れても、Marshallを置いている店が見つかる。
ステージのアンプが大きくなった理由は、2つある。ドラムに負けない音量と、ツアー先で替えが利くことである。
どちらも、録音の奥行きとは別の話である。
Whole Lotta Loveは、大きなアンプで録られた
ただし、ここで「Pageは小さなアンプで録り、大きなアンプは舞台用だった」とまとめると、事実と合わなくなる。
同じTotal Guitarのインタビューで、Pageは2ndの「Whole Lotta Love」のアンプも明かしている。Vox Super Beatleのヘッドに、RickenbackerのTransonicキャビネットを組み合わせたもの。それがまさに「Whole Lotta Love」で鳴っている音だという。
Super Beatleは、Yardbirdsを抜けたPaul Samwell-Smithが置いていったヘッドだった。Pageが聞いた話では、Beatlesは客の悲鳴で自分たちの楽器が聞こえず、もっと大きな音のアンプを求め、Voxがそれに応えたものだという。
つまり、2ndの代表曲は、舞台の音量のために作られたアンプで録られている。
さらにPageは、2ndの終わり、ニューヨークで録った分にはMarshallが使われていたと言う。「Heartbreaker」はMarshallだったかもしれない、とも述べている。
1stはSupro。2ndはSuper BeatleとMarshall。アンプは作品ごとに変わっている。
変わらないのは、アンプの大きさではない。Pageが録音の方法として繰り返し語っているのは、マイクの置き方と部屋のほうである。
大きさと、奥行きは別のもの
ここから先は、本人の説明を並べたうえでの読みである。
Led Zeppelinの音の「巨大さ」は、しばしば大きなアンプと大きな音量の結果として語られる。ステージに並ぶMarshallの壁は、その象徴になりやすい。
だがPageの言葉の中で、録音の大きさを説明する語は「depth」、つまり奥行きである。そしてその奥行きを作るのは、アンプの出力でも、卓のEQでもなく、音源とマイクの間の距離と、そのあいだにある部屋だった。
「Communication Breakdown」は、小さなアンプを小さな部屋で鳴らし、離れて録った曲である。Rosenはそれを靴箱のようだと言った。その形容が指していたのは、音の大きさではなく、部屋である。
ギターの音を録るとき、いまは多くの場合、スピーカーにマイクを近づける。キャビネットの音を取り込んだIRも、近い位置のマイクで作られたものが多い。それは悪いことではない。近いマイクは、アンプの音をはっきり捉える。
ただ、Pageの方法から見れば、それは2本のうちの1本である。
もう1本は、部屋の後ろに立っていた。
なお、ここで扱ったのは1968年から1977年にかけての録音と、それについての本人の発言である。それ以後の時代の方法まで同じだったとは言えない。
まとめ
1977年、Jimmy Pageは「Communication Breakdown」のギターを、アンプを小さな部屋に置き、離れた位置から録ったと説明した。
距離が奥行きを作る。Pageはそれを古い録音の格言と呼び、バンドの録音全体で使ってきたと述べた。
近いマイクと後ろのマイクを混ぜ、位相を整える。楽器が正しく鳴っていればEQは要らず、音はマイクで作るべきだという。「Out on the Tiles」では、部屋の端から端までの時間差まで録った。2014年にはドラムについても、同じ言葉を繰り返している。
1stのギターは小型のSuproで録られた。ステージのアンプが大きくなったのは、Bonhamの音量と、ツアー先で替えが手に入ることのためだった。2ndの「Whole Lotta Love」は大きなSuper Beatleで録られており、アンプの大きさは一定ではない。
Pageが一貫して語ったのは、アンプの大きさではなく、マイクと音源の間の距離である。Led Zeppelinの録音の奥行きは、つまみを回す前に、マイクを一歩下げるところから作られていた。
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