デスメタルやdjentは、外から見ると「珍しい機材を消費する人たち」に見えやすい。
多弦ギター、極端な低いチューニング、やたらタイトな刻み。一般的な演奏では使わない道具が並んでいる。
だが、少し引いて見ると、別の姿が見えてくる。
極端なジャンルの要求は、既存の機材の限界を先に炙り出す。そして、その要求に応えて作られた道具が、後になって少数派の外へ広がり、市場全体の標準機能になることがある。
この記事では、7弦から8弦へ、そしてブースト、ゲート、モデリングとIRへと続く道筋を、名機の列伝ではなく、一つの信号設計の話として読み直す。
極限は、市場の外ではなく、実験場にある
まず、立場をはっきりさせておく。
「ニッチなジャンルが、何もかも発明した」という話ではない。
多くの場合、発明は先にある。極端なジャンルがしたのは、既にある発明を別の用途へ転用し、その有効性を目に見える形にすることだ。
だから、これは英雄譚ではない。極端な要求が、既存技術のどの機能が本当に効くのかを可視化する——その過程を、産業のR&D(研究開発)として読む、という話である。
極端な演奏は、普通の演奏では出てこない要求を突きつける。低く、速く、隙間なく刻む。一音が長く尾を引けば濁る。無音の管理が甘ければ、タイトさが消える。この厳しさが、道具の弱点を先に見つける。
Universe――最初の商用7弦は、何を想定していたか
7弦の話から始める。
Steve Vaiは、Ibanezと設計したUniverseを、最初の商用7弦エレクトリックギターと位置づけている。これは本人の公式資料での説明だ。
ここで大事なのは、その最初の想定である。
Universeは、低くヘヴィに刻むために生まれた楽器ではない。Vaiの音楽——Passion and Warfareのような、音域を広げて表現の幅を取るための拡張として構想された。
つまり出発点では、7弦は「メタルの低音のための道具」ではなかった。ここを取り違えると、以後の系譜が最初から低音リフの歴史に見えてしまう。
Korn――発明ではなく、用途を変えた
用途を変えたのは、Kornである。
Kornのギタリスト、Munky(James Shaffer)は、VaiのPassion and Warfareと7弦から影響を受けたこと、そしてバンドが低音弦をリフに用い、従来とは違う扱いをしたことを、メーカーの公式インタビューで語っている。
ここは慎重に切り分けたい。
Kornは7弦を発明していない。発明したのはVaiとIbanezだ。Kornがしたのは、拡張された音域を、超絶技巧の表現ではなく、低く沈むリフの原動力へ転用したことである。
そして、この転用が普及の入口になった。珍しい拡張楽器が、あるジャンルの中心的な道具として使われ、その有効性が広く目に見えるようになった。
「ニッチが用途を変え、価値を可視化する」。この記事の骨格が、ここで最初に現れる。
7弦から8弦へ――低域が、要求を増やす
音域を下へ伸ばすほど、要求は増える。
低い弦は、締まっていないと濁る。アタックがぼやければ、刻みの輪郭が消える。低域がもたつけば、リフは団子になる。拡張レンジは、楽器そのものだけでなく、その先の信号経路すべてに高い基準を課す。
低くなるほど、この基準は厳しくなる。低い基音は波長が長く、エネルギーが低域に偏る。それを歪ませると、低い周波数どうしが混変調を起こし、濁りやすい。だから音域を下げるという一手は、弦やピックアップだけでなく、ブースト、アンプ、ゲート、キャビの選択まで——経路の全段を巻き込む要求になる。
その要求を最も先鋭化させた一つが、Meshuggahだ。
IbanezはMårten HagströmとFredrik Thordendalを公式アーティストとして扱い、M8M、M80Mといった8弦シグネチャーモデルと、同バンドがdjentの形成へ与えた影響を紹介している。
8弦は、単に弦が一本増えた話ではない。低域の収束、アタックの明確さ、そして音と音の間の無音——これらを一段厳しく要求する。楽器単体では、もう応えきれない。
アンプ単体では、足りない
ここで論点が、楽器からアンプへ、そしてアンプの外へ移る。
低く、タイトで、隙間の効いた音は、アンプのゲインを上げるだけでは作れない。必要なのは、信号がアンプに入る前と後を含めた、経路全体の設計である。
用語を先に定義しておく。以下で言う「入力信号の設計」とは、ギターの入力ジャックに挿す物理的な入力のことではない。ブースト、ゲート、ゲインの配分、モデリングやIR、リアンプまでを含んだ、制作上の信号経路全体を指す。
この定義を置くと、現代メタルの音作りが違って見えてくる。
入力信号を、設計する――ブースト、ゲート、無音
モダンなメタルの刻みは、しばしばアンプの手前と後ろで作られている。
アンプの前にブーストを置き、低域を締めて中域を前に出す。ノイズゲートで、音と音の間に無音を作る。タイトさとは、鳴っている時間の問題であると同時に、鳴っていない時間を作れるかの問題でもある。ゲートは、その無音を管理する。
アンプのゲイン自体はむしろ抑え、前段のブーストで整え、後段のゲートを効かせる——そういう組み立て方も広く使われる。音の性格は、アンプ一台の中ではなく、経路の配置で決まっている。
なぜ、わざわざアンプの手前で整えるのか。理由は、歪みの順番にある。ブーストで低域を締め、中域を持ち上げてからアンプへ送ると、アンプはあらかじめ整形された信号を歪ませることになる。生の低域をそのまま突っ込んで歪ませるより、輪郭が崩れにくい。アンプのゲインを抑えるのも、後段のゲートが戦う残留ノイズを減らし、無音をきれいに作るためだ。
ゲートの役割も、単なるノイズ消しではない。速く低く刻むと、一つの音の減衰が次の音へかぶり、低域が積み重なって濁る。ゲートは、その尾を断ち、一音ごとに空間を空ける。つまり「タイトさ」は、鳴らす音を作ることと同じくらい、鳴らさない時間を作ることでできている。低域の収束、アタック、そして無音——これらは別々の機能ではなく、一つの信号設計の三つの面である。
この「要求を製品へ翻訳する」動きは、メーカーの側にも表れている。
Fortin Amplificationは、Meshuggah向けのアンプ、33やGrindに由来する前段のボイシング、そしてZUULゲートを、高利得設計の系譜として自社で説明している。極端な低域と信号制御の要求が、アンプ前段やゲートを含む一般販売可能な製品群へ翻訳された、と読める。
ただし一点、線を引く。同社はZUULを業界標準と表現しているが、これはメーカー自身の評価であって、独立した市場占有率の証拠ではない。ここでは「メーカーがそう位置づけている」までを事実として扱う。
モデルとIR――録音のあとでも、変えられる信号経路
信号設計の行き着く先が、モデリングとIRだ。
MeshuggahのKolossについて、Mårten Hagströmは、全ギター音がCubaseのAmp Rackプラグインによるものだと説明している。物理的なアンプ一台ではなく、制作環境の中で音色が成立した、という具体例である。
これは象徴的だ。
音を作る場所が、鉄とガラスの箱から、信号経路そのものへ移る。しかもソフトウェアなら、録音した後でも経路を差し替えられる。IR——実際のキャビネットとマイクを収めたスナップショット——を通せば、キャビの選択すら後から変えられる。
この移行には、もう一つ含意がある。
音を決める判断が、録音の瞬間に固定されなくなる、ということだ。どのアンプで、どのキャビで、どのマイク位置で——かつては録り終えた時点で確定していた選択が、モデルとIR、そしてリアンプによって、後から開き直せるようになる。残された信号に対して、後から適用する選択の集合として音が扱われる。
固定された一つの録音ではなく、保存された信号経路に対する判断の束。極端なメタルは、その扱い方を最も早く常態化させた側にいた。もっとも、これはKolossのような具体例が示すことであって、あらゆるメタルの必須手順だと断じるものではない。
「アンプの音」ではなく、「設計された信号経路の音」。極端なメタルは、この移行を最も早く、最も徹底して押し進めた側にいる。
本当に、市場標準になったのか
ここで、自分の見立てに反論を当てておく。都合の良い話だけで終わらせないためだ。
第一に、多弦、ゲート、デジタルアンプ、IRは、メタルのためだけに生まれた機能ではない。可搬性、録音の再現性、制作の効率——ジャンルと無関係な要求でも、これらは普及し得た。
第二に、Fortinのような設計者の歴史はメタルと強く結びついているが、それだけで市場全体への波及や「標準化」を証明するわけではない。
第三に、市場を作る要因は、ジャンルの外にもある。著名アーティストの採用、メーカーの製品戦略、価格の低下、DAWの普及。これらが同時に効いている。
そして、正直に言えば——7弦や8弦、ゲート、IRがどれだけの普及率に達したか、その数値を私は確認していない。だからここで言う「標準」は、市場を席巻したという意味ではない。その機能が、一般に入手可能なものになった、という限定した意味である。Universeの販売推移や復刻の時期も、メーカーの一次資料で確かめるまで断定はしない。
つまり主張は、「メタルが楽器市場を制圧した」ではない。「極端な要求が、ある機能の有効性を可視化し、それが少数派の外へ入手可能な形で広がった」である。
ニッチが作るのは、発明ではなく、用途と価値の可視化
並べ直すと、道筋はこうなる。
7弦はKornより前に存在した。ゲートもブーストもモデリングも、djentより前からあった。極端なジャンルがしたのは、無から新技術を生むことではない。
既にある技術を、極端な要求で押し、その用途を変え、価値を目に見える形にすることだ。
Vaiが作った拡張レンジを、Kornが低音リフへ転用した。汎用の信号処理を、Meshuggahやその周辺が、低域と無音を設計する道具へと組み替えた。そのたびに、「この機能はこう効く」という証拠が、市場に対して可視化された。
だから、極端なジャンルを「珍しい機材を買う人たち」として見るのは、半分しか捉えていない。
それは、既存技術の用途を変え、その市場価値を先に照らし出す試験環境でもある。少数派の要求は、多数派が後で使う機能の、最初のテストケースになっている。