アンプの音を記録するとき、いつも同じところで詰まる。
アンプの設定を10通り試したい。マイクも3種類使いたい。位置も2つ選びたい。掛け合わせると60回の収録になる。設定を1つ増やすたびに、6回ずつ増えていく。
今回はここを変えた。アンプ単体を録り、キャビネットは別に持つ。
どういうことか
ギターアンプの音は、アンプとキャビネットとマイクの積み重ねでできている。普通のプロファイルは、その全部を一度に写し取る。だから条件を変えるたびに録り直しになる。
分けて考える。
アンプは、キャビネットを繋がずに録る。 スピーカーの代わりにリアクティブロードという装置を繋ぐ。スピーカーと同じようにアンプへ負荷をかけながら、音は電気信号のまま取り出す。こうして得られるのは、キャビネットとマイクを除いたダイレクトアンププロファイルだ。
厳密に言えば「アンプ単体」ではない。ロードボックスもアンプのパワー段と相互作用するので、その影響は記録に含まれている。スピーカーとマイクと部屋が外れた状態、と言うほうが正確だ。
キャビネットは、別に一度だけ録る。 インパルスレスポンス(IR)という形で、キャビとマイクと位置の組み合わせを記録する。
あとは掛け合わせる。アンプ12設定 + IR 6種類 = 収録は18回。そこから生まれる組み合わせは72本。掛け算だった作業が、足し算になった。
同じ考え方は Kemper のマニュアルにも書かれている。ダイレクトアンププロファイルとキャビIRの組み合わせは、Merged PROFILE と同等に authentic である、と。Merged PROFILE はアンプ部とキャビ部を分けて持つ形式で、今回の構成はそれと同じ土俵に置かれている。
それでも、すぐには採用しなかった
作業量が6分の1になるなら、迷う理由はなさそうに見える。だが最初から採用したわけではない。
懸念があった。ロードボックスはスピーカーではない。
真空管アンプの出力段は、繋がれたものと相互作用する。スピーカーはインピーダンスが周波数で大きく動く部品で、共振点では跳ね上がり、高域では上がっていく。アンプはその変動する負荷を見ながら鳴っている。抵抗器のような一定の負荷とは、そこが違う。
リアクティブロードはこの変動を模したものだが、模したものである以上、実物と同じではない。そのぶん音色が変わるのではないか。変わるなら、作業量が減っても採るべきではない。記録が実機から離れてしまう。
だから先に比べた。同じ設定のアンプを、実キャビにマイクを立てて録ったものと、ロード経由で録ってIRを掛けたもので並べた。
結果は、差が無いわけではなかった。ただし、6分の1になる作業量と引き換えにするには、あまりに小さい差だった。同じ設定を24回録るか18回録るかではなく、設定を増やすたびに6回ずつ増えるか1回で済むか、という違いである。その差を埋めるほどの音質差は、確認できなかった。
判断を書いておくと、これは「差が無い」という主張ではない。差はあるが、それより得るものが大きいという判断である。
コンボは、これまでどおり内蔵スピーカーでも録る
ただし、この方式を全機種へ広げるつもりはない。
コンボアンプは、引き続き内蔵スピーカーを含めたプロファイルも作る。
コンボは、そのスピーカーとその箱で鳴ることを前提に設計されている。小型コンボの内蔵スピーカーは、口径も許容入力も限られていて、歪み始める場所そのものが音の一部になっていることが多い。それを外して別のキャビIRを掛けると、その機種が本来鳴らしていた音ではなくなる。
ヘッドは違う。もともと外部キャビを繋ぐ機材なので、キャビは最初から可変の要素である。分けることが、その機材の使われ方に沿っている。
分けるか分けないかは、作業効率ではなく機種の性格で決める。
分けたことで、本当に増えたもの
作業量が減ったのは、こちら側の都合である。買う側にとって何が変わったのか、正直に切り分けておきたい。
変わっていないことがある。マイクと位置を選べること自体は、これまでのパックでも同じだった。SM57とGT-67を比べる、CenterとEdgeを入れ替える。それは以前から、別々のプロファイルとして用意してきた。そこは新しくない。
変わったのは、キャビが本当に外れていることである。
これまでのプロファイルは、アンプとキャビとマイクを一度に写し取っていた。Kemperの中ではキャビ部が分かれているように見えるが、それは一体で録った音を後から切り分けたものだ。だから別のIRを重ねようとすると、切り分けきれなかった箱の響きの上に、もう一つの箱が乗る。
今回のプロファイルにはキャビが入っていない。アンプだけである。
だから手持ちのIRを、そのまま正しく使える。1912以外の箱で鳴らしたSL-60を、自分で作れる。4×12でも、他社のIRでも、自分で録った箱でもいい。
固定された72通りではなく、アンプ12 × 任意のIR になる。ここが、分けたことの本当の効果である。
Soldano SL-60 とは、どんなアンプか
Soldano はアメリカのアンプメーカーで、SLO-100 というハイゲインアンプで知られている。SL-60 はその系譜にある60Wヘッドで、日本で作られ、一年で終わった。
コントロールは Preamp(Gain)/ Bass / Middle / Treble / Master / Presence。そして HI と LO の2つの入力を持つ。チャンネル切替のスイッチではなく、挿す穴が2つある。
弾いてみると、HI と LO はまるで別のアンプだった。HI はノブを12時にしただけで既に歪んでいて、Gain を 2.5 あたりまで絞ってもまだ歪みが残る。LO はいちばん低いところがブレイクアップで、Gain を振り切ってもクランチより先へは行かない。
だから今回のパックにクリーントーンは入っていない。収録を省いたのではなく、このアンプがそういうアンプだった。無理にクリーンを作るより、振り切った側を記録するほうが、この一台の姿に近いと判断した。
なぜクリーンが無いのかには理由がある。SL-60 の回路は SLO-100 のオーバードライブ・チャンネルだけを取り出したもので、Normal チャンネルを持っていない。この設計の経緯と、日本製である理由、一年で終わった事情は、別の記事に書いた。
- Soldano SL-60は、なぜ日本で作られ、なぜ一年で終わったのか。SLO-100を一本のチャンネルへ落とした廉価機
- SLO-100の思想は、どこまで簡潔にできるのか。Soldano SL-60 Series IIという実用機
12の設定
HI と LO で6設定ずつ。Master は全設定で 5 に固定した。
HI側はスクープ、低域を足した重い設定、ミッドを削り切った刻み用、最高ゲインのリード用など。LO側はクランチの幅で、押し出しの強いもの、歪みの浅いもの、ドンシャリ、中高域で前に出るもの。無料サンプルは HI と LO のフラット設定で、この2つが各入力の基準点になる。
各設定のノブ値(Gain / Bass / Middle / Treble / Presence)は、パックに同梱するスペックシートに12設定ぶんすべて記載している。何をどう設定した音なのかが分からないまま買うことにはならない。
どう収録したか
KEMPER PROFILER MK 2 / PROFILING 2.0。ロードは Two Notes Torpedo Captor の 8Ω(リアクティブ)で、SL-60 の出力も 8Ω に合わせている。接続は RETURN INPUT、Return Level は12設定とも固定。エフェクトは無し。
キャビは別収録の Marshall 1912(Celestion G12B-150 / 1×12)を IR にしたもので、96kHz / 24bit / 200ms。
ひとつ補足がある。この IR は、真空管ではなくソリッドステートのパワーアンプで録っている。理由があるのだが、書き始めると長くなるので別の記事にする。
接続の詳細と各設定の実値は、パックに同梱するスペックシートに記載している。
何を売っているか
最高の音でも、唯一の正解でもない。Soldano SL-60 というハイゲインアンプが、その条件でどう鳴っていたかという記録を、弾ける形にして渡す。
HI と LO それぞれのキャラクターを基礎に、12音色を構成した。クリーンが入っていないことも、HI が最初から歪むことも、隠していない。それがこのアンプだからだ。
弾いたときの反応は、使うギター・ピックアップ・ボリュームでも変わる。まずは無料サンプルで、あなたのKemperと耳で確かめてほしい。
試す
- 無料サンプル(12本 / HI・LO 両方のフラット設定を3マイク × Center/Edge): https://buy.polar.sh/polar_cl_OM0jQlZIHi7FzlHnh9CV8awDoA84e73VJjkqf2H3EEU
- プロファイルパック(72本 / 12設定 × 3マイク × Center/Edge、¥2,900 / $19): https://buy.polar.sh/polar_cl_0SmX8K72k3uKpIqoeoUXP2o9I8jLSokrWaunw0gGYny
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免責
Soldano、SL-60 等の名称は Soldano Custom Amplification、Marshall / 1912 は Marshall Amplification、Celestion は Celestion、Shure / SM57 は Shure、Two Notes / Torpedo Captor は Two Notes Audio Engineering の商標です。Chuuni Sound Lab は独立した制作者であり、各メーカーとの提携・公認・スポンサー関係はありません。機種名は収録した機材を説明する目的でのみ使用しています。Kemper / Profiler は Kemper GmbH の商標です。