90年代のMarshallには、高ゲインのリード音を出す方法が一つではなかった。
一台まるごとを高ゲイン機として設計したものがある。 多機能アンプの中に、高ゲインのチャンネルを一つ用意したものもある。
JCM900 SL-Xと、6100LMは、その二つの考え方を代表している。
どちらも90年代のMarshallである。 どちらも、Marshallらしい歪んだリード音を出せる。 だが、出発点が違う。
ここでは、この二台を並べて、同じ"Marshallのリード"がどう違って聞こえるのかを整理する。 名前やスペックの比較ではなく、設計の方向の違いとして見ていく。
どちらも90年代Marshallの高ゲインである
まず、共通点から確認しておきたい。
JCM900 SL-Xは、JCM900シリーズの中の単チャンネル高ゲイン機である。 正式にはSL-X 2500という型番で、リバーブ付きのDual Reverbとは別の系統にある。 チャンネル切り替えを持たず、一つの回路を深く歪ませることに振った設計になっている。
6100LMは、Marshallの30周年を記念して作られた多チャンネル機である。 LMはLimited Editionの略で、複数のモードと複数のチャンネルを一台に詰め込んでいる。 クリーンから高ゲインまで、Marshallの歴史を一台で辿れるようにした、いわば"全部入りMarshall"である。
両者は性格がかなり違う。 それでも、90年代という同じ時代に、Marshallがハイゲイン需要へ応えようとした産物である点では共通している。
80年代までのMarshallは、JCM800 2204のような単純な構成が基準だった。 プリアンプで作れる歪みには限りがあり、もっと歪ませたい人は外部ブースターや改造に頼っていた。
90年代に入ると、アンプ自体がもっと歪むことを求められるようになる。 SL-Xも6100LMも、その要求に対するMarshall側の回答だった。
ただし、回答の形が違った。 一台を高ゲイン専用にするか。 多機能アンプの中に高ゲインの居場所を作るか。
この違いが、音の印象そのものに表れてくる。
6100LM Ch3という「全部入りの中のリード」
6100LMのChannel 3は、このアンプの中で最も歪む領域である。
6100LMは、複数のチャンネルとモードを切り替えて使う設計になっている。 クリーン、クランチ、そして高ゲインのリードが、一台の中に並んでいる。 Ch3は、その並びの一番奥に置かれた高ゲインチャンネルだと考えるとわかりやすい。
この"並びの中にある"という事実が、Ch3の音を決めている。
全部入りのアンプを作るとき、それぞれのチャンネルは互いに喧嘩しないように整えられる。 クリーンが破綻せず、クランチが扱いやすく、リードが浮きすぎない。 一台の中で役割が分かれているから、リードチャンネルも"リードとして成立する範囲"にまとめられる。
その結果、6100LM Ch3の高ゲインは、わりと整って聞こえる。 歪みの密度が高く、音の輪郭が滑らかで、伸びがある。 単音を弾いたときのまとまりがよく、リードソロを想定して作られていることが伝わってくる。
これは、多チャンネル機ならではの方向だと思う。 一つのチャンネルだけを尖らせるのではなく、全体のバランスの中でリードを成立させる。 6100LM Ch3の整い方は、その設計思想の表れである。
整っているというのは、優れているという意味ではない。 役割が決まっているから、その役割に向けて音が作り込まれている、という意味である。
SL-Xの「一台まるごとがリード」という押し出し
SL-Xは、チャンネルを持たない。 切り替えるべき相手がいない。
だから、SL-Xの歪みは、他のチャンネルとのバランスを気にする必要がない。 一台まるごとを高ゲインに振り切れる。
この違いは、弾いたときの押し出し方に出る。
SL-Xの歪みは、6100LM Ch3と比べると直線的である。 密度で押すというより、前へまっすぐ出てくる感じがある。 音の輪郭は、整えられているというより、少し荒さを残している。
この荒さは、欠点として片付けない方がよい。 バランスを取るために削られていない分、Marshallらしい中域の押しがそのまま出てくる。 コードを刻んだときの食いつきや、ピッキングへの反応の素直さは、単チャンネル設計だからこその手応えである。
6100LM Ch3が「全部入りの中で成立させたリード」だとすれば、SL-Xは「一台まるごとがリードアンプ」である。 逃げ場がない代わりに、その一つの音に全部が向かっている。
もちろん、SL-Xにも操作上の制約はある。 クリーンを別チャンネルで用意することはできないし、深く歪ませた状態を基準にした設計になっている。 便利さでは6100LMに及ばない。
だが、ここで比べたいのは便利さではない。 同じMarshallの高ゲインが、設計の出発点によってどう違って出てくるか、である。
多機能アンプの中のLeadか、一台まるごとのLeadアンプか
ここまでの違いは、一つの問いにまとめられる。
リードの音は、多機能アンプの中の一つの設定として作られたのか。 それとも、一台まるごとがリードのために作られたのか。
6100LM Ch3は前者である。 クリーンもクランチも持つアンプの中で、最も歪む居場所として用意されている。 全体のバランスの中にいるから、整っていて、扱いやすい。
SL-Xは後者である。 他の音色を切り替える発想がないから、一つの歪みに全部が集中している。 バランス調整のために丸められていない分、押し出しが強く、荒さが残る。
どちらが正しいわけではない。 ライブで何種類もの音を一台で出したい人には、6100LMのような全部入りが向いている。 一つの強い歪みだけを、できるだけ素直に出したい人には、SL-Xのような単チャンネル機が向いている。
同じ「Marshallのリード音」という言葉でくくられていても、出発点が違えば、出てくる音の性格は違う。 名前が同じMarshallだから同じ、とは言えない。
これは、SL-Xや6100LMに限った話ではない。 アンプを「Marshallの高ゲイン」のような一語で選ぶと、この設計の違いが見えなくなる。 同じカテゴリの中にも、まったく違う出発点のアンプが並んでいる。
CSLで二台を記録する意味
CSL(Chuuni Sound Lab)は、実機の真空管アンプを、定めた条件で収録してKemperプロファイルとして提供している。
その立場から見ると、SL-Xと6100LMは、どちらも記録する価値のある二台である。 ただし、記録する意味が違う。
CSLが残したいのは、「どちらが優れたMarshallか」という結論ではない。 同じ90年代Marshallの高ゲインに、二つの異なる設計の答えがあった、という事実である。
全部入りの中で整えられたリードと、一台まるごとを振り切ったリード。 この二つを並べて記録できるなら、聴く側は「Marshallの高ゲイン」という言葉の幅を確かめられる。
CSLでは、こうした比較を成立させるために収録条件を揃えている。 キャビネットは、12インチのクローズドバックを基準にしている。 最高だからではなく、二台を同じ土俵で比べるためである。
マイク位置は、CenterとEdgeの2点を収録している。 マイク位置は無数に作れるが、商品としては代表点に絞り、網羅性よりも比較可能性を優先している。
同じキャビネット、同じマイク位置で記録すれば、SL-Xと6100LM Ch3の差は、アンプ本体の設計の差として現れる。 キャビネットやマイクの違いに紛れない。 これが、条件を揃えて記録することの意味である。
なお、完成したプロファイルを演奏したときの反応は、使用するギターの入力信号によっても変わる。 プロファイル本体は、主にKemperの解析信号と、アンプ・キャビネット・マイクの応答によって作られる。 そのうえで、弾く人のギターやピッキングが入力として加わり、反応が変わっていく。
だからこそ、アンプ本体の設計の違いを、できるだけ素直に記録しておきたい。 SL-Xの直線的な押し出しと、6100LM Ch3の整った密度を、それぞれそのまま残す。 二台を同じ条件で並べられること自体に、記録としての意味がある。
まとめ
JCM900 SL-Xと6100LM Ch3は、どちらも90年代Marshallの高ゲインである。 だが、出発点が違う。
6100LMは、クリーンもクランチも持つ全部入りアンプである。 Ch3は、その中の最も歪むチャンネルとして、全体のバランスの中で整えられている。 密度が高く、輪郭が滑らかで、リードとして成立する範囲にまとめられている。
SL-Xは、チャンネルを持たない単チャンネル高ゲイン機である。 一台まるごとがリードに向いているから、バランス調整のために丸められていない。 直線的で、荒さを残した押し出しがある。
多機能アンプの中のLeadか、一台まるごとのLeadアンプか。 この違いが、同じ「Marshallのリード音」を別の性格にしている。
どちらが上ということではない。 用途が違い、出発点が違う。
CSLは、その違いを優劣ではなく記録として残したい。 同じ条件で二台を並べることで、「Marshallの高ゲイン」という言葉の中にある幅が見えてくる。
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