Marshallの音、と言われて思い浮かぶものがある。
中域の押し。少し荒い歪み。音量を上げたときに前へ出てくる感触。
その音を支えているのが真空管である、という話はよく聞く。そしてMarshallの真空管といえばEL34、というのもよく聞く。
ところが、手元にあるMarshallが必ずEL34とは限らない。
CSLで扱っているJCM900 SL-Xは、5881という別のパワー管を積んだ仕様である。
これは特別な改造ではない。90年代のMarshallには、もともと5881を積んだ個体が存在する。
「Marshall=EL34」という前提を一度外してみると、90年代のMarshallが何をしようとしていたのかが、少しだけ違って見えてくる。
Marshall=EL34というイメージ
EL34は、英国系のギターアンプを語るときに必ず出てくる真空管である。
Marshallの多くのモデルがEL34を採用してきた。だからこそ「Marshallの音はEL34の音」という結びつきが、強く共有されている。
EL34の特徴としてよく挙げられるのは、中域の存在感である。
歪ませたときに中域が前へ出る。音量を上げると、その押しがさらに強くなる。バンドの中でギターが抜けてくる、あの感触の一部は、この中域に支えられている。
この「中域で押すMarshallらしさはEL34による」という理解は、間違いではない。
ただ、それが強く共有されているぶん、「Marshallは全部EL34である」という思い込みにもなりやすい。
実際には、Marshallはその歴史の中で別のパワー管も使っている。
5881は、そのひとつである。
5881とは、どういう真空管なのか
5881は、米国系のアンプでよく使われてきた6L6という系統に属する真空管である。
6L6は、Fenderをはじめとするアメリカのアンプを支えてきたパワー管として知られている。5881は、その6L6を頑丈に作り直した派生球、という位置づけで語られることが多い。
ここで大事なのは、EL34と5881では「系統が違う」という点である。
EL34は英国系のアンプで広く使われ、中域の押しと早めの歪みで語られる。
5881が属する6L6系は、米国系のアンプで広く使われ、低域の締まりとヘッドルームの広さで語られることが多い。
ヘッドルームというのは、歪み始めるまでの余裕のことだと考えるとよい。
ヘッドルームが広いほど、同じ音量でもクリーンを保ちやすく、歪みが遅れて出てくる。低域も、潰れる前の余裕が残りやすい。
つまり、EL34と5881は「良い悪い」ではなく、音の出方の傾向が違う球である。
この違いを頭に置くと、5881仕様のMarshallという組み合わせが、少し面白く見えてくる。
英国系の回路に、米国系の系統のパワー管が載っている、という形になるからである。
90年代Marshallに現れる5881仕様
5881仕様のMarshallは、特殊な一点物ではない。
90年代のMarshallには、EL34を基本としながらも、5881を積んだ仕様が存在する。仕向け地や時期によって、パワー管の構成が変わっていた、という整理ができる。
EL34だけがMarshallの正解で、5881は例外、という見方もできる。
ただ、ここでは少し別の見方をしたい。
90年代のMarshallは、ハイゲイン化と多機能化を進めていた時期である。歪み量を増やし、チャンネルを増やし、現場の要求に応えようとしていた。
その流れの中で、パワー管に5881という選択肢が混ざっていたという事実は、単なる部品の差し替え以上の意味を持つように見える。
中域で押し切る、いわゆる伝統的なMarshall像から、少しだけ離れた方向。
低域を締めて、ヘッドルームを確保して、歪みを整理する方向。
5881仕様は、その方向と相性のよい選択だったのではないか、という仮説が立てられる。
これは断定ではない。CSLとしては、手元の実機を通じて確認していきたい部分である。
6100LMとSL-Xの接点
CSLでは、JCM900 SL-Xと並べて、Marshall 6100LMも扱っている。
6100LMは、90年代のMarshallが「全部入り」を目指した多チャンネル機である。SL-Xは、その同じ時代に出た、単チャンネルの高ゲインMarshallというべきモデルになる。
立ち位置はかなり違う。
それでも、この2台には接点がある。どちらも90年代Marshallの製品であり、どちらも5881仕様という形を取り得る、という点である。
同じ時代に、性格の違う2台が、同じ系統のパワー管を共有している。
これは、5881という選択がその時期のMarshallにとって特殊ではなかったことを示している。
そして比較する側にとっては、ありがたい条件でもある。
回路もチャンネル構成も違う2台を、パワー管という同じ土台の上で聴ける、ということだからである。
6100LMのリードチャンネルで聴く5881の感触と、SL-Xの単チャンネルで聴く5881の感触。
そこに共通して現れるものがあれば、それは回路の差ではなく、5881という球の傾向に近い、と考えやすくなる。
5881で感じる硬さ・締まり・レンジ感
5881仕様のMarshallを鳴らしたときに出てくる印象を、言葉にしてみる。
硬さ。
低域が膨らみすぎず、輪郭が残る感触がある。音量を上げても低域が暴れにくく、芯が崩れにくい。
締まり。
歪みの粒が、だらしなく広がらない。コードを弾いたときに、和音の分離が保たれやすい。
レンジ感。
低い方から高い方まで、音が伸びている感触がある。中域だけが突出するのではなく、全体が見渡せるような鳴り方になる。
これらは、6L6系のヘッドルームの広さと結びつけて説明できる印象である。
歪みが遅れて出てくるぶん、低域は締まりを保ち、音域全体の見通しがよくなる。
もちろん、これは手元の個体での印象である。同じ5881仕様でも、キャビネット、スピーカー、入力する信号によって出方は変わる。
だからこそ、条件を決めて記録する意味がある。
「5881だからこう鳴る」と一般化するのではなく、「この条件で鳴らしたとき、こういう傾向が出た」と残す。そういう扱い方が、CSLには合っている。
EL34的な中域とは違う魅力
ここまでの印象を、EL34の像と並べてみる。
EL34は、中域で押す。音量を上げたときに、その中域がぐっと前へ出る。荒さと一体になった押し出しが、英国系Marshallらしさとしてよく語られる。
5881仕様で感じるのは、それとは違う方向の魅力である。
中域で押すのではなく、全体を締めて見通す。前へ出るというより、輪郭で立つ。
これは、どちらが優れているという話ではない。
中域の押しが欲しい場面では、EL34的な鳴り方の方が向く。和音の分離やヘッドルームが欲しい場面では、5881仕様の方が扱いやすい、ということがある。
面白いのは、5881仕様のMarshallが「Marshallらしさ」を失っているわけではない、という点である。
回路は英国系のMarshallである。歪みのキャラクターや、音の前へ出る性質は残っている。
そこに、5881の締まりとレンジ感が乗る。
結果として、Marshallでありながら、少しだけアメリカ寄りの感触を持った音になる。
90年代のMarshallが、伝統だけにとどまらず、別の方向にも手を伸ばしていた。その痕跡が、パワー管の選択にも残っている。
そう考えると、5881仕様は欠点ではなく、その時代のMarshallを理解する手がかりになる。
CSLで5881仕様のMarshallを記録する意味
CSLが残したいのは、「これがMarshallの正解音だ」という主張ではない。
その時点で整えられ、実際に鳴っていた一台の記録である。
5881仕様のMarshallは、まさにそういう記録に向いている。
「Marshall=EL34」という共有された像があるからこそ、5881仕様の音は、その像との差として聴くことができる。差があるから、記録する価値が生まれる。
CSLでは、こうした音を同じ条件で記録している。
同じ条件でEL34系のMarshallと5881仕様のMarshallを並べれば、パワー管の傾向の差を、同じ土俵の上で聴けるようになる。
5881の締まりやレンジ感も、条件を固定した上で記録するからこそ、後から確認できる情報になる。
「5881はこういう音」という曖昧な記憶ではなく、「この条件で鳴らした、この一台の5881仕様Marshall」という記録として残す。
それが、CSLが5881仕様のMarshallを扱う意味だと考えている。
まとめ
Marshallの音はEL34の音である、という理解は広く共有されている。
それは間違いではない。ただ、90年代のMarshallには5881仕様が存在し、その音はEL34的な中域の押しとは違う方向を持っている。
5881は、6L6系の系統に属する球である。低域の締まり、ヘッドルームの広さ、レンジ感が、その傾向として現れる。
CSLで扱うJCM900 SL-Xと6100LMは、性格の違う2台でありながら、5881仕様という共通点を持つ。同じ球を土台に、回路の違いを聴き比べられる関係にある。
5881仕様のMarshallは、Marshallらしさを保ちながら、少しだけアメリカ寄りの感触を持つ。
それを欠点として見るのではなく、90年代Marshallが何をしようとしていたかを示す手がかりとして見る。
条件を決めて記録すれば、その手がかりは、後から確認できる情報になる。
CSLは、その確認を実機で続けていく。
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