2016年、Elektronは八つのアナログ歪み回路を持つ製品を二つ発売した。片方は卓上のAnalog Heat、片方は足元のAnalog Drive。回路の考え方は近いのに、いま新品で買えるのは卓上のほうだけである。音質でも部品でもなく、プリセットをどう呼び出すかという一点に、シンセの文法とギターの文法の違いが出ていた。優れた設計が別の文化へ渡るとき、何が翻訳されず残るのかを、Elektronの製品史からたどる。
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2016年、Elektronは八つのアナログ歪み回路を持つ製品を二つ発売した。片方は卓上のAnalog Heat、片方は足元のAnalog Drive。回路の考え方は近いのに、いま新品で買えるのは卓上のほうだけである。音質でも部品でもなく、プリセットをどう呼び出すかという一点に、シンセの文法とギターの文法の違いが出ていた。優れた設計が別の文化へ渡るとき、何が翻訳されず残るのかを、Elektronの製品史からたどる。
雷、モーター、光。Gamechanger Audioは「珍しい物理現象を持ち込む会社」として紹介されることが多い。だがその括り方では、製品どうしの差が消える。現象そのものと、それを音楽の時間へ乗せる制御と、演奏者の身体が触れる操作面。この三つに分けて九年分を並べ直すと、最も過激な現象を持つ製品が最も保守的な操作をしていて、地味に見える製品のほうが新しい動作を要求していたことが見えてくる。
Chase Bliss、Bananana Effects、Gamechanger Audio、SOMA。この四社はまとめて「実験的」と呼ばれる。だがその一語は、まったく違う四つの設計を潰している。最初の一音までに何を要求されるか(入口)、操作を誤ると何が起きるか(失敗)、さっきの音へ戻れるか(回復)。この三つで並べ直すと、安全網は音の穏やかさではなく、演奏者と現象のあいだに何枚の層を挟んだかで決まっていたことが見えてくる。
Source Audioの技術資料には、既存の歪みを複製・モデリング・エミュレートするつもりはなかった、とはっきり書かれている。ところがこの会社が主流の選択肢になったのは、名機のディレイを写した機種と、スプリング・リヴァーブの再現からだった。20年の年表を、製品の並びではなく「疑った場所」と「主流化のとき何を変えたのか」で読み直すと、変えられたのは処理の中身ではなく、ペダルボードの文法のほうだったことが見えてくる。
TC ElectronicのG-Systemは2005年に登場し、評価も高かったが、同じ名前の後継機は出ないまま終わっている。この製品を古いマルチとしてではなく、手持ちのアンプを主役に残したまま周辺だけを統合した設計として読み直す。4系統のペダル・ループと5本目のプリアンプ・インサート、アンプのチャンネル切替、分離できる処理部。完成度を機能数ではなく「何を主役として残したか」と「判断をどこへ集約したか」で測ると、後継不在の理由も技術停滞では説明できなくなる。Nova System、Fractal FX8、BOSS MS-3、Line 6 HX Effectsを同じ軸に並べる。
マルチエフェクターは昔から人気で、主役はアナログからデジタルへ移ってきた。デジタルマルチは音質面の留保に甘んじてきたが、アナログマルチはMaxonのTube Screamer内蔵など品質の問題が少なく、自分のエフェクトを足すループやオン/オフ記録も備える。デジタルの強み(同時数・接続順の可変)は実利用では空振りも多い。アナログマルチの真価は電源と可搬性で、Fly Rigがアナログの側から巻き返した。だがモデラー小型化の時代に、結局はまたニッチへ――という現在地を読む。
スプリングリバーブの歴史は、音質が少しずつ良くなっていく一本道ではない。PA、ギターアンプ、スタジオ、実験的な演奏という別々の現場が、同じ機械式残響に別々の課題を与えてきた歴史である。Hawk HR-15、Peavey Valverb、Radial TankDriver 500、Gamechanger Audio LIGHT Pedal。この四台を優劣ではなく「何を良くしようとしたのか」で並べ直す。
アンプにエフェクトループがあるかないか。地味な仕様だが、これはそのアンプが『自分をどういう存在だと考えているか』を映している。単体で完結する装置か、信号の通り道の一部か。ループの有無から、アンプ観を読み解く。
同じブースターでも、アンプの前に置くか、歪みの後に置くかで、働きはまるで変わる。前に置けば歪みの入り方を変え、後に置けば音量とレンジを押し出す。位置というだけの違いが、なぜ別物の音を生むのかを整理する。